第33章 うつつ夢列車
──ドシュッ!
魘夢の頸に食い込む斬撃。
そのまま薙ぎ払った炭治郎により、魘夢の頭は胴体と切り離され、飛んだ。
列車の流れに沿うように、炭治郎の後方──蛍の足元でどんっと鈍い音を立てた頭は、ごろりと転がり止まる。
頭を失った胴体もまた、血を吹き出しながらその場に崩れ落ちた。
「やった…!」
荒れる影波を抑え、蛍が笑顔を見せる。
対象的に、炭治郎は怪訝な顔をしていた。
(…手応えがほとんどない…)
自身の手で下したからこそわかる。
今まで幾つも鬼の頸を斬首してきたからこそ、その手応えの無さに疑問を覚えた。
炭治郎は過去、下弦の伍である累と戦った。
その時はこんなにも手応えのない頸ではなかった。
禰豆子と共闘しても斬ることができなかった強靭な頸だった。
結果的に助太刀に入った義勇の手で滅するに至ったのだ。
なのに累よりも上位に当たる鬼の魘夢が、こんなにも腑抜けた頸であるはずがない。
(もしやこれも夢か? それともこの鬼は彼よりも弱かった?)
「炭治郎? どうしたのっ?」
「いや──」
疑問は疑問のまま、答えを出さない。
それでもどうにか蛍に伝えようと口を開いた時。
ぞわりと、肌を撫でるような悪寒が走った。
「──!?」
「蛍ッ!」
反射的に蛍が跳び退いたのと、炭治郎が叫んだのは同時だった。
炭治郎の手前で足をつく蛍の視線の先──魘夢の頭が落ちていた所。
「…あの方が…柱に加えて耳飾りの君を殺せって言った気持ちが…凄く、よくわかったよ…」
其処から無いはずの声が響く。
「存在自体が…何かこう…とにかく癪に障ってくる感じ」
血反吐を滲ませた口をにんまりと上げて、頭だけの魘夢が笑っていた。
「な…ッ(死なない!?)」
「なんで…ッ」
ぼこぼこと切断された頸の断面から、肉の塊が溢れ出す。
木の根のように列車の屋根で足場を作り、頭を真横に傾けたままずるずると二人の視界の上に上がっていった。
「素敵だねぇ、その顔。そういう顔を見たかったんだよ…っ」