第33章 うつつ夢列車
〝強制昏倒催眠の囁き〟
魘夢の術により幾度となく眠りに落とされていた炭治郎は、その度に夢を見ていた。
暗い部屋。
茶器や食事が散乱した床。
夥(おびただ)しい血の飛び散った跡。
どの夢も一律して同じものだった。
ただし再び炭治郎の前に姿を現した家族は、以前とは真逆の顔を見せてきた。
『なんで…ったすけてくれなかったの…?』
『オレたちが殺されている時、何してたんだよ…っ』
『自分だけ…生き残って…』
あんなにも炭治郎を慕い、笑顔を見せていた弟妹達。
その誰もが炭治郎を責め、汚く罵った。
『なんの為にお前がいるんだ…役立たず』
父には一度も向けられたことのない、蔑んだ視線を向けられた。
『あんたが死ねばよかったのに。よくものうのうと生きていられるわね』
母には一度も向けられたことのない、針のような言葉を突きさせられた。
「──ッ」
びきり。と炭治郎の血管が震える。
亡くなった家族に、その死を救えなかったことを責め立てられたからではない。
「言うはずがないだろうッそんなことを!!」
今まで一度だって向けられたことのない顔を、家族にさせた魘夢に対して。
「俺の家族がッ!!」
耐え切れない怒りが頂点を超えたのだ。
「俺の家族を…!」
蛍が告げた思いと同じだ。
魘夢は炭治郎の記憶を覗いているだけの余所者。
その者に、家族の何を知っているというのか。
「侮辱するなァアア!!!」
知った顔で、夢の中で好き勝手に蹂躙する。
魘夢のその暴行が何より許せなかった。
(こいつ…ッ)
魘夢の手前で炭治郎が高く飛躍する。
見上げた魘夢の目に、叫ぶ炭治郎の顔が映り込む。
その傍らで揺れる花札のような耳飾りに、【一】と刻まれた目が見開いた。
(あの耳飾りは無惨様の…!)
聞き覚えのあった特徴的な耳飾りだ。
耳に花札のような飾りを付けた鬼狩り。
それを殺せば、更に血を分け与えてやろうと言われた。あの。