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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「す…すごい…」


 炭治郎が初めて蛍の血鬼術を見たのは、鬼殺隊の節分の時だ。
 その時は複数人の体を縛り上げる、縄のような形状をしていた。

 今目の前にあるのは、3mを越える高さも幅もある壁のような黒波。
 節分時とは比にならない質量と強度を持つ蛍の血鬼術──影鬼。

 初見から半年程しか経っていないというのに。
 自分もそれなりに任務をこなして成長を続けていると思っていたが、圧倒される程の差がそこにはあった。


(柱(煉獄さん)との任務をこなしているからか…?)

「炭治郎」

「えっ?」

「私の術じゃ抗うことはできても鬼は倒せない。隙を作るから、炭治郎が決め手を打って!」

「! わかったッ」


 感心と畏怖とで、荒立つ波を見上げていた炭治郎は、蛍の指示にはっとすると大きく頷いた。
 そうだ。自分だって鬼殺隊として日々奮闘してきたのだ。

 巨大な波で蛍の姿は捉え難いが、魘夢へと向かえば不思議と波は炭治郎の足場を避けてきた。


「道は私が作る! 突っ込んで大丈夫!」


 蛍の言う通り、波へと突っ走れば半分に割れるようにして炭治郎の両隣で飛沫を上げる。
 踏み出す一歩こそ、黒々とした巨大な波の壁に臆したが、相手は蛍。信頼に足り得ると炭治郎の心が告げている。
 故にすぐ本来の行動を取ることができた。


「その影は小賢しいけれど、向かってくるのはただの人間。だとすれば簡単だ」


 炭治郎を守るように壁になっているが、彼が通る道も作らなければならない。
 その姿が見える一瞬を、魘夢は逃さなかった。


「ほら見えた」

「〝お眠りィィ〟」

「──ッ!」


 波が道を作る為に割れた瞬間を狙い打つ。
 蛍と魘夢の中間地点まで駆け出していた炭治郎は、まともに衝撃波を頭に喰らった。

 くらりと頭が揺れる。
 一瞬にして視界が暗くなり、がくんと膝が落ちた。


「炭治郎ッ!」


 眠りに落ちるのは一瞬。
 まるで強力な麻酔薬を打たれたかのように、炭治郎の眼球がぐるんと上を向いた。


「ッ…!」


 束の間。
 ダン!と力強い一歩を踏み出して、ふらつく体を止めたのだ。

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