第33章 うつつ夢列車
『しあわせな朝だなぁ』
『…どんな夢を、見ていたの?』
『ん…君がいる夢だ。我が家にかえって…せんじゅろうが、出迎えてくれて…隣には、ほたるがいる。その日のことを、話ながら…ちちうえにも、報告して…夕餉を食べ…風呂に入り…』
『…寝る?』
『うむ。ともに、こうして』
ある日の起床時。
寝起きの、とろんと無防備な声で。
ふやりと、柔らかな表情で。
杏寿郎は、現実(いま)と変わらない夢を見て幸せだと言った。
『夢のなかのほたるも、同じように笑ってくれた。千寿郎が大好きで堪らないと言って、目が合った父上に微笑んでくれた。…そうして、君が隣にいてくれるから。こんなにも幸福でいいものかと、思えてしまう』
それが堪らなく幸福なのだと、嬉しそうに笑っていた。
「自分の幸せがなんなのかなんて、自分で決める。少し覗いただけの他人に、その人の全てなんて理解できない」
静かな中にも感情はこもる。
つけ入る隙を作らない蛍の否定に、ぴきりと魘夢の額に浮かんでいた青筋が震えた。
「それに欲だってちゃんとあるよ」
弟には、剣士になれずとも立派な人間になって欲しい。
父には、昔のようにまた心を開いて欲しい。
そして。
『何より俺のことを俺以上に想ってくれるこの腕の中の優しい鬼が、人に戻れるように』
泣きたくなるような愛おしさを添えて、教えてくれたのだ。
「勿論、弱音だって吐く時もあるし。悪戯してくる時もあるし。負けず嫌いなところもあるし。我儘だって言ってくることもあるし。魘夢の言う弱さとは別の弱さなら、持っているかもね」
「あの煉獄さんが?…想像つかない…」
すらすらと告げる蛍に、炭治郎は開いた口が塞がらなかった。
自分にだけ見せてくれるありのままの姿も、また愛おしいのだと。蛍は何を言うでもなく炭治郎にひとつ笑った。
「弱い心を持っている人は、強くない訳じゃない。弱さを知っているから、強くなれるんだよ」