第33章 うつつ夢列車
「…確かに俺の意見は必要ないかもしれないね」
一呼吸置いて、再びゆたりと口の端を持ち上げる。
「君の夢も、君と同じような夢を見ていた、あの羽織姿の鬼狩りも」
炭治郎のように感情の起伏は見せなくとも、微かな"揺れ"を見せることは先程知れた。
用心深く観察しながら言葉を選べば、人間臭い鬼はやはり"そこ"に目を止めた。
(弱い人間は群れたがる。群れたがる人間は他人に依存する。この鬼も皮(がわ)だけが俺と同じで、中身はただの人間だ)
朧気な形にもならない"幸せ"の為ならなんだってする、愚かな人間と同じだ。
「ただの柱と鬼の関係かと思っていたら、随分と仲が良いんだねぇ。蛍、と言ったっけ。君、人間臭いだけじゃなく人間の真似事までしていたんだ」
「……」
「人間と鬼とじゃそもそも立場から違うというのに。叶いもしない夢を共に見て、共に縋り合っている。ねぇ。それが君の幸せなの?」
「っお前…!」
「炭治郎」
優しく、優しく、触れられたくはない心の内側を引っ掻くように。煽る魘夢に噛み付く炭治郎を、蛍は静かに制した。
「そうだよ。俺は今蛍と話してる。彼女が望んだんだよ、俺と会話をすることを。ね?」
「……」
「それで、教えてくれないかな。何をどうしたら、そんなありきたりな幸せを望めるのか。…ああ、なんだったらあの柱の方でもいい」
「…師範が、何」
「師範? へぇ、鬼の癖に人間の下手に出ているんだ? 君も大変だね」
感情の起伏は変わらない。
それでも蛍が反応を示すのは、夢にまで鮮明に見た煉獄杏寿郎という男が関わる時だ。
炭治郎のように単純にはいかなくとも、結局のところ弱みとなるのは人間と同じ。
やれ恋人だ、家族だ、仲間だ、友だと、縋る他人に対してだ。
蛍にとっては、師でもある柱のあの男がそうなのだろう。
敢えてその影をちらつかせながら、魘夢はねとりと猫なで声で頸を傾げた。