第33章 うつつ夢列車
ぴくりと蛍の口の端が僅かに強張る。
鬼の強さは、人間を喰らった数と比例する。
強い術を持てば持つ程、その鬼は人間を幾度も喰らってきた経緯を持つことになる。
禰豆子のような特例を除いて。
(ならこの魘夢も──)
童磨とまではいかずとも、下弦の上位。
今まで無限列車で行方不明になった人間は、四十人以上。
それだけの数を喰らっていることは確かだ。
「顔色が変わったねぇ。君、まるで人間のような反応をするけど。…ああ、そういえば随分と人間臭い夢も見ていたような気がする」
蛍達に見せていた夢は、まだ初期段階。
ただの幸せな夢だ。
故に魘夢の興味も向かなかったが、鬼が見る夢というものには普段より意識が向いた。
しかしそこで見たものは、なんともありきたりな風景。
「人間に戻って、好いた男の子を宿す。面白味も何もない、凡庸な夢だ」
どうせなら鬼の高みを目指すような夢の方が、まだ観賞のし甲斐があったというのに。
「私の未来に、魘夢の面白味は別に必要ないと思うけど」
薄く笑う魘夢に対し、蛍の表情は一貫して変わらなかった。
淡々と告げる声に感情も含まれておらず、魘夢の薄い笑い声が止まる。
(あの鬼狩りの子供はまだ動揺が見られたけど、この女にはその兆候が全くない。…腐っても鬼ということか)
何より魘夢の術を破った蛍は、炭治郎のように覚醒条件を満たした訳ではない。
魘夢と同じに術を用いて突破したのだ。
つまり純粋に術の力で、蛍に負けたということ。
(鬼狩りの柱が連れている鬼だ。下手をしたら、今までの鬼狩り隊士よりも厄介かもしれない)