第33章 うつつ夢列車
「いきなり何を…っ」
「何って。自己紹介。相手のことを知るなら、まず自分のことを話さなきゃかなって」
「自己紹介!?」
「…君、自分の立場わかってるの?」
「勿論。私は鬼で、貴方も鬼。話ができて、会話が通じる。ということで自己紹介。貴方の名前は?」
「蛍っふざけてる暇はッ」
「ふざけてないよ。私は今までの任務もそうしてきたから。鬼と会ったらまず話す。言葉を交えられるのなら試してみる」
杏寿郎の監視の下、幾度も試してきたことだ。
そのどれもが上手くいった試しはないが、テンジのような鬼がいることも痛みと共に知った。
だからこそ止めるつもりはない。
「貴方の名前は? よければ教えて欲しいんだけれど」
「……」
じっと魘夢の目が蛍を観察する。
夢の中を覗くことができるからこそ、蛍の血鬼術の形は凡そ理解していた。
そこに他者の名前を聞くことで発動するような術はなかったはずだ。
「…魘夢」
炭治郎の反応からしても、策を練るような裏の意図はない。
そう判断した魘夢の口は、自身の名を語っていた。
「魘夢。…やっぱり名字はないんだね。それも自分で付けた名前?」
「さてね。そこまで親切に語る気はないよ。好きに想像したらいい」
肩を竦めてひらりと躱す。
協力的ではないが、攻撃的でもない。
魘夢の姿勢を用心深く見ながら、蛍は更に問いかけた。
「魘夢が今まで、列車の任務に向かった鬼殺隊の隊士達を倒してきたの?」
「そうだと言ったら?」
「これからも同じことをするつもり?」
「愚問だなぁ。だから俺は此処にいて、君達とこうして出会っているんじゃないのかな。君、鬼の割にはそこの子供より随分緩い頭をしているね」
当然過ぎる回答を問われても呆れるばかりだ。
やれやれと溜息をついて、魘夢は頸を横に振った。
「話をして何をする気か知らないけど、和解なんて道はないよ。君は鬼だから俺の餌にはならないけれど、それ以外のこの列車の人間は全て俺の腹に収まる算段さ」