第33章 うつつ夢列車
「それより蛍がなんで此処に…! 禰豆子は!?」
「禰豆子は信頼に足る私の同胞と見て、仲間を託してきた! 私の一番力になる子も預けたから、私の傍より安全かも」
「力になる子…っ?」
「説明は後。それより炭治郎の方こそ、相手は下弦の一だよ。一人で突っ込むには無謀過ぎる。加勢させて!」
朔ノ夜が扱えない状態では、血鬼術では大した加勢もできないもしれないけれど。という補足は胸の内にしまって、蛍はぱんと自分の掌に拳を叩き込んだ。
「でも…っそれじゃあ禰豆子が」
「禰豆子だから任せたの。あの子はただの弱い女の子じゃないよ。私にはない力を持ってる」
「…っ」
「それにこの列車内にいる鬼は恐らくあの下弦の一だけだ。下弦上弦なら、尚更縄張り意識も強いだろうし。鬼は仲間なんて連れて群れない」
激しい列車の振動と強風にも揺るがない、蛍の意志と言葉。
ただ守るべき存在ではない。仲間だからこそ預けてきたと告げる蛍に、炭治郎も歯を食い縛ったまま言葉を呑み込んだ。
「ふぅん。やけに鬼に対して詳しいね。鬼狩りとつるむ鬼だから、俺達のことなんて知らないと思ってたけど」
ただ魘夢だけは、現れた瞬間から蛍から目を逸らすことなく、文字の刻まれた瞳でじぃっと見つめ続けていた。
自分の知る鬼とは異なる鬼。
その奥底を覗くように。
「ただ飼い慣らされただけの鬼じゃなさそうだ」
薄く笑う魘夢の唇から見える鋭い牙。
見た目は線の細い色白の青年に見える。
しかし幾度も死線を越えてきたからこそ、ぴりぴりと肌を突き刺す圧を感じた蛍も魘夢から目を逸らさず睨み続けた。
「私の名前は彩千代蛍。貴方の名前は?」
「え?」
「ほ、蛍?」
かと思えば自身の名を告げる。
蛍の唐突な自己紹介に、驚いたのは炭治郎だけではなかった。
薄い笑みを張り付けていた魘夢が、きょとんと【一】の目を瞬く。