第33章 うつつ夢列車
気付かれないことは大事なことだ。
夢だと気付くまで、そこは現実なのだ。
(それなのに…なんでこいつは起きたのかな。短時間で覚醒条件も見破った。幸せな夢や、都合のいい夢を見ていたいっていう人間の欲求は凄まじいのにな)
今まで、自ら幸福な夢の誘惑を断ち切り脱出した鬼殺隊はいなかった。
魘夢自身も無惨から力を貰い、この術の完成度を高めるまでに幾つか失敗をしたこともあったが、それでも最後には人間の命を喰らってきた。
初めてだ。
こんな未成年の鬼殺隊に、こんなにも短い時間で術を見破られたのは。
「人の心に土足で踏み入れるな! 俺はお前を許さない…!」
感情を込めた重い言葉を吐きながら、炭治郎が抜刀する。
鬼の頸を斬れる唯一の武器である日輪刀を向けられながらも、魘夢は未だ飄々としていた。
そもそも炭治郎が現れた時も白々しく反応していたが、魘夢が気付いていないはずがなかった。
夢を見せている者の精神世界は、手に取るように覗くことができる。
だからこそ、炭治郎の次に起きた者のこともまた。
「炭治郎…ッ!」
「蛍っ!?」
「やあ。また新しい顔ぶれが来たねぇ」
構える炭治郎に駆け寄る蛍の姿も、当然のものとして微笑み受け入れる。
ただその目は、興味深く蛍を見つめていた。
「あれって…下弦の鬼…!?」
「下弦の一。数字が実力の順になっているなら、下弦の鬼の中で一番強い鬼だッ」
蛍は足を止めると、炭治郎と対峙している魘夢の姿に目を見開いた。
上弦、下弦の鬼の知識はあっても、下弦の鬼に出会ったのは初めてだ。
童磨や妓夫太郎に比べれば実力は下位のものとなろうとも、階級をつけられる程の力を持つ鬼。
(まさか下弦の鬼が列車を牛耳ってたなんて…!)
乗客全てを眠らせることのできる力を持つ鬼。
その実力は蛍の予想した通り、力へと直結していた。