第8章 むすんで ひらいて✔
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「気分はどうだ」
「うん。少し…良くなった。ありがとう義勇さん」
戻り着いた檻の中に彩千代を下ろす。
良くなったと言いつつ、布団の上に座り込んだ彩千代はそれ以上動こうとしない。
何処となく暗い表情は、体調悪化の所為か、それとも先程の話の所為か。
疲労した顔で吐息をつく。
その額にはまだ脂汗が浮かんでいる。
「…待っていろ」
「?」
「今、水を持ってくる」
各柱屋敷から離れたこの檻に、中々湯は持ち込めない。
それでも何もしないよりは良いだろう。
さっきまで大量の汗を掻いて嘔吐もしたんだ、体くらいは綺麗にしたいはずだ。
「水って…」
「体を清める水だ」
「い、いいよ。なんか今日は疲れたから、もうこのまま寝ようかなって…」
「……」
「え。何その顔」
本気で言っているのか。
俺が特別綺麗好きな訳じゃないが、女というものはそういう生き物じゃないのか。
前に胡蝶との合同任務で身嗜みを気にする姿を見たことがあるし、四日四晩の任務帰りに甘露寺に会った時は鼻を摘んで逃げられた。
今の彩千代からは僅かに嘔吐物の臭いがする。
明らかに汚れたその状態で平気で寝られ…
「……」
「義勇さん?…顔…怖いけど…」
よくよく見れば彩千代の檻の中は決して綺麗と言える所じゃない。
胡蝶に言われて神崎が偶に掃除しているらしいが、それも彩千代が檻にいない限られた時だけだ。
土の上に直に置かれた畳は褪せているし、その上に直に敷かれた布団も皺だらけだった。
思わず眉間に力が入ってしまう。
確かに彩千代は鬼として捕えているが、だからと言って雑に扱っていいとは思っていない。
寧ろこんな扱いだから、尚の事その心は弱っていっているのかもしれない。
「待ってろ。湯を持ってくる」
「お湯って何処から…えっ義勇さん!?」
慌てる彩千代をそのままに足早に檻を後にする。
湯を何処から調達すべきか…此処から一番近いのは屋敷よりも待機所だな。
其処で湯を沸かすか。