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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第8章 むすんで ひらいて✔



「そんな長い睡魔、きたことがないし…そんな冬眠みたいな眠り方、できる気がしない。私は禰󠄀豆子と違って、人の…味も、知っている、し…」


 ぽつりぽつりと届く声が段々と収縮していく。


「禰󠄀豆子は、特別なんだと、思う。…凄いなぁ…」

「……」

「私には…無理だなぁ…」


 確かに、禰󠄀豆子は鬼の中でも異例中の異例。
 特異な鬼となるだろう。


「…お前だってお館様に認められた鬼だ。でなければ此処にいない」


 別に慰める気はなかった。
 ただ、その声が余りに小さく寂しそうに聞こえて。


「お館様は、優しい人だから…義勇さんや杏寿郎達と同じで」


 俺が優しい?


「勘違いをしていないか。俺はただ自分の役目を」

「うん。そうやって正攻法で向き合おうとしてくれる義勇さんがいるから、私は他の柱に殺されずに済んでる。だから、優しいよ」

「…別に優しくしているつもりはない」

「意図的じゃないから、ありがたいのかも」


 そういうものなのか?

 思わず振り返れば、相変わらず蒼白い顔。
 それでも彩千代の口元には、ほんの少しだけ笑みと言えるものが浮かんでいた。


「義勇さんがいたから。蜜璃ちゃんや杏寿郎がいたから。私は禰󠄀豆子と違って、周りの人に助けられて、今を生きているの」

「……」

「だから…弱いのかな…禰󠄀豆子みたいに、私の体のことだから、私でどうにかしたいのに…」

「呼吸法で飢餓は抑えられないのか」

「少しだけなら。以前よりは、自分の体を傷付けなくて済むようになった。…けど、全く平気な訳じゃ…」


 呼吸法を身に付けた彩千代は、結果で言えば以前より強くなった。
 柱である不死川ともそれなりに渡り合えるようになったから確かだ。
 しかしそれは体の使い方を覚えただけで、基礎的な体力は落ちていっている。

 それは…俺達が、此処に彩千代を縛り付けて耐えることを強制しているからかもしれない。
 鬼にとって鬼殺隊はやはり生き易い場所ではない。


「強く、なりたい。自分の道くらい、自分で歩けるようになりたいのに」


 か細い寂しそうな声。
 それは懇願にも似た声に聞こえた。

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