第33章 うつつ夢列車
「俺も色々試して起こそうとしたけど、煉獄さんも善逸も伊之助も起きなかったッもしかしたら俺や蛍みたいに、内部で夢だと気付かないと起きないのかもしれない…ッその可能性をただ待っていたら、救える命も救えなくなってしまう!」
炭治郎の主張は一理ある。
この車両には沢山の一般乗客が乗っているのだ。
その全てが悪鬼には餌になり得る人間。
仲間を起こしている間にも、犠牲は出るかもしれない。
「だから俺は鬼を捜しに行く。蛍は禰豆子と此処で、煉獄さん達を起こしてくれ」
「炭…っ」
「ムゥ~!」
「禰豆子来るな! 危ないから蛍と待ってろ!」
外付けの通路から器用に屋根へと飛び乗る炭治郎を、禰豆子が追おうと続く。
その手を握って咄嗟に止めた蛍は、列車の上を駆けていく炭治郎の背中を止められず見送った。
「二人は煉獄さん達を起こしてくれ!!」
告げる炭治郎の目は既に前を向いている。
未成年であろうとも鬼殺隊士。
守るべきもの、己が今すべき最善のことがわかっているのだ。
(そうだよ。炭治郎は剣士なんだから)
列車にいたのが、もし自分と杏寿郎の二人だけだったなら。自分も炭治郎と同じ先を見ていただろう。
確信すると同時に、ぎゅっと手を握りしめる。
「ごめん、禰豆子」
「ムゥ?」
「炭治郎は、鬼の匂いを前方から嗅ぎ取ってた。向かった先には鬼がいるはず」
ガタタン、ゴトトンと揺れる車両。
激しい強風で髪や服がうねる中、蛍は真っ直ぐに炭治郎の去った列車の屋根を見上げていた。
「鬼はお互いに餌場を作って縄張りを持っているから、恐らく列車には一体しかいないと思う。前にいるのなら、この車両に鬼はいない」
未だ幼い姿をしたままの禰豆子へと、視線を移す。
目線を合わせるように屈み込んで語りかけた。
「だからね、この場を禰豆子に任せたい。炭治郎達の腕の縄を切ったように、鬼の気配がするものを燃やして皆を解放してあげて」