第33章 うつつ夢列車
青白い肌は未だ生気の少ない顔立ちだったが、薄い青年の唇が僅かに弧を描く。
微笑みとも取れる表情に、不安げだった炭治郎の顔にも明るさが戻った。
「はい!」
強く頷いて踵を返す。
青年の声に背を押されるように、炭治郎は腰の刀に手を添えると駆け出した。
「蛍! 俺はこの列車にいる鬼を捜してくる!」
「待って一人で!? 危ないよッ」
「ムゥ!」
途端に蛍の腕の中から禰豆子が飛び出す。
蛍も慌てて青年に会釈をすると、炭治郎の後を追った。
相手は、柱である杏寿郎も含めて、複数人の人間を一度に術に落とす鬼だ。
下手をすればこの車両内だけではない。列車の乗客全員が術に落ちている可能性もある。
確実に実力のある鬼だろう。
「それなら私も…ッ」
「ムゥウ!」
「駄目だ! まだ煉獄さん達が夢から覚めないのに──」
告げる炭治郎の手が、がらりと車両の扉を開く。
隣の車両へ移る為には、外付けの通路を渡らなければならない。
びゅうびゅうと外気の風が顔を打つ。
未だ走り続ける列車は、炭治郎に向けて強風を巻き込んだ。
「ぐ…っ」
「炭治郎っ!?」
途端に、鼻と口を押さえて炭治郎は呻った。
重たく、強い匂いだった。
強風が舞っているというのに、残像すら残しそうな濃い鬼の匂いが鼻を刺激する。
「鬼の、匂いが…凄く強い…!」
「え…っ」
嗅覚が人並み外れているのは炭治郎の特殊な体質ならではのもの。
蛍と禰豆子には、鼻を刺すような匂いは感じない。
(こんな状態で眠っていたのか俺は…っ客車が密閉されていたとは言え信じられない…! 不甲斐ない!!)
歯を食い縛る炭治郎が、両腕を下げて通路へと飛び出す。
前方を睨み付けるも人影のようなものはない。
それでも鼻を突く臭いは、前から流れてくるのだ。
(鬼は風上…先頭車両か?)
「炭治郎待って! そんなに強い鬼の匂いなら一人で行くのは危険だからッ師範を起こしてから」
「それじゃ間に合わない!」
肩に手を置く蛍を、炭治郎はすぐさま一蹴した。