第33章 うつつ夢列車
やがて辿り着いた先には、太陽のような光り輝く核があった。
無意識領域を明るく照らす様は太陽のようだが、目に痛くはない。
近付けばほんのりと暖かさを感じる核そのものが、この澄み切った世界を作り出した発生源なのだとわかった。
わかったからこそ青年は何もできずにその場にうずくまり、ただ泣いた。
暖かく、痛みなどない。ただただ優しい世界。
涙する青年の周りに集まる小人達は、心配そうに身を寄せてくる。
その小さな体からも、ほのかな温かさを感じるのだ。
『あたたかい…ずっと此処にいたい…』
現実世界は、痛みと恐怖ばかりだった。
そんなものとは無縁の幸せな夢を望んだ青年だからこそ、炭治郎の何をも包み込む優しさに身を預けられた。
それでも炭治郎は自力で目覚める方法を見つけた為、強制的に青年も夢の世界から放り出された。
その瞬間、一番傍で温もりを与えてくれていた小人の手を握りしめていた。
暖かく、温かく、自分にとって太陽のような小人だ。
何よりも傍にいたいと望み、決して離さなかったその手はやがて小人と同化した。
炭治郎の心の一部だったものは青年の心の一部となった。
優しさの化身は澱(よど)んだ青年の心をあたたかく、明るく照らしたのだ。
「……」
「…大丈夫ですか?」
仲間であろう、おさげ少女達が気絶させられた様を見ても青年は驚かなかった。
静かにあるべきものを受け入れるような俯いた顔に、炭治郎が恐る恐ると声をかける。
炭治郎のことは知らない。
それでもどこかで聞いた声のような気がした。
あたたかく、優しい響きを持つ声だ。
誘われるように、そっと青年の顔が上がる。
「…ありがとう」
胸に当てたままの掌から、じんわりと伝わる温もり。
決して消えることのない光は、青年の心で燻っていた妬みや嫉妬を和らげた。
命を張っているのは自分だけではない。
自分より年下であるこの少年もまた、悪鬼を倒す為に日々命の危険に曝されているのだ。
それでも守ろうとしているのは、自分のような一般の人間達。
「気を付けて」
誠意を込めて告げる。
これから命を懸けに行くであろう炭治郎の無事を祈って。