第33章 うつつ夢列車
「ありがとう、禰豆子」
「ム♪」
広くも小さな可愛らしいおでこ。
そこにこつんと己の額を重ねて感謝を告げる。
重なる瞳は縦に割れた鬼として同類のものだが、蜜璃の持つ撫子色のように愛らしい色をしていた。
禰豆子らしい色だと、口元に笑みを添えて蛍が頷く。
「…っ」
そんな二人の鬼を見るおさげ少女の空気は、未だ緊迫したものだった。
構えた錐を一度だって離してはいない。
自分達が鬼殺隊士のような剣技を持っていないことは重々理解している。
だからこそ片時も目を離さず、警戒を怠らなかった。
特に鬼である二人の同性からは。
(なんなの、あの鬼達。魘夢様みたいな冷たさは感じない。…もしかして甘く見られてる?)
ぎり、と奥歯を噛み締める。
魘夢と話す時は、その視界に入るだけで背筋が凍った。
なのにこの鬼達からは冷えるような恐怖は感じない。
(だったら…ッ)
甘く見られていることには腹が立つが、相手が油断しているならそれは好機だ。
隙をついて少女の方にでも怪我を負わせれば、足止めにはなるかもしれない。
魘夢は今、準備中である。
それが整えさえすれば、相手が剣士だろうが関係ない。
(一網打尽よ…!)
ぎゅ、と強く錐を握りしめる。
ふぅふぅと緊張で荒くなる呼吸をどうにか沈めながら、飛び出す機会を伺った。
「ごめん」
出鼻を挫かれたのは、予想外の声が聞こえたからだ。
すぐ傍で。
「俺は戦いに行かなきゃならないから」
は、とおさげ少女がその声の主を捉えた時。既にその体は、少女の懐に入り込んでいた。
ドッ!と強い手刀が少女の胸の上を打つ。
首筋に近い急所であるところに強い衝撃を受けて、構える暇もなくぐわんと少女の頭が揺れた。
「っぁ──…」
悲鳴を上げることもできなかった。
一瞬視界に映ったのは、哀しげな瞳でこちらを見る炭治郎の顔。
(く、そ…ッ)
そして視界は、暗転した。