第33章 うつつ夢列車
おさげ少女の言う"あの人"とは、人間ではない。鬼だ。
鬼気迫る程の剣幕で、大した戦闘力も持たない未成年の者達が命を賭けている。
"国民病"と恐れられる、死亡率が高い結核に蝕まれた青年もまた同じなのだろう。
(きっと皆が皆、後には退けない選択肢を持たされてる)
おさげ少女達が炭治郎達と縄で体を繋ぎ、何をしていたのか。訊かずともその態度で明白だった。
夢とは本人の精神世界のようなもの。
そこに入り、もし自由に行動ができたのなら。
(間接的にでも、人を殺す協力をさせてたんだ)
夢の中に潜り込み、何かしら仕掛けて内部から鬼殺隊士の精神を殺していたのだ。
殺人の汚名を着せてしまえば、いくら一般市民であろうとも後は奈落に突き進むしかない。
(こんな、子供を使って)
ざわりと蛍の空気が揺れる。
見開く緋色の目で彼らを見つめる姿に、腕の中の禰豆子がもぞりと身動いだ。
「うー」
その声はもう呻り声など上げていない。
眉を八の字に変えて、蛍だけを見上げる。
きりきりと縦に割る血の色のような瞳は、禰豆子とは重ならない。
「ぅうっ」
ぺちり、と。禰豆子の紅葉のような幼い手が蛍の頬を叩いた。
「…禰豆子?」
叩くと言うにはか弱くて、触れると言うには強い。
その手の主張に、ようやく蛍の目が禰豆子を捉える。
「う!」
「ぇ。あ。うん?」
ぺちぺちと両手で蛍の頬を叩きながら、ふんふんと鼻息荒く頷く。
つられて蛍が頷けば、満足そうに禰豆子はその身を擦り寄せた。
ぎゅっと抱き付いてくる幼子の体温はあたたかい。
小さな背中を撫でながら、蛍は自然と深呼吸をしていた。
呼吸は精神を安定させる為の第一歩。
杏寿郎にしかと叩き込まれた身だ。
一つ、深呼吸を終える頃には、瞳の濃い血の色も落ち着いていた。