第8章 むすんで ひらいて✔
「自分の体を喰らう以外に、飢餓を抑える方法は見つかっていないのか?…例えば睡眠を取ることでは」
「睡眠?…寝ることで頭はすっきりしても、お腹の減りがなくなっているようには…」
…やはりか。
「何か方法が見つかればいいけど…でも、そんな方法なんて…」
「竈門禰󠄀豆子」
「ねずこ?」
「初めて禰󠄀豆子の話をした時のことを憶えているか」
「うん…私と同じ眼をした鬼を見たって」
「あの後すぐ禰󠄀豆子は長い眠りについた。人を喰べることなく、二年近く眠りについていたそうだ」
「二年、も?」
鱗滝さんから届いた知らせだから確かな情報のはずだ。
にわかには信じ難いが、それが事実なら禰󠄀豆子は他の鬼と全く異なる存在である予感がする。
「その禰󠄀豆子が最近になって目覚めた。人は傷付ける者ではなく守るべき者と、鱗滝さんが暗示を掛けている所為もあるが…それ以降一度も人を襲ってはいないし、飢餓症状も表れていない」
言葉はなかったが気配でわかった。
彩千代の驚き固唾を呑む空気が。
「飢餓状態であることには変わりないだろう。しかし鱗滝さん曰く、禰󠄀豆子は眠ることでその症状を抑え、体を回復していると見られている。最初の二年間、眠り続けていたのはそれに体を順応させる為ではなかったのかと」
「…そんなことが…」
「その可能性が彩千代にもないかと思ったが、どうだ?」
改めて今一度問い掛ける。
彩千代も禰󠄀豆子と同じ飢餓への対処ができれば、体の弱体化も免れるだろう。
何かを考えている素振りの彩千代からは、沈黙しか返ってこない。
目線だけ向ければ難しい顔をしていた。
それも束の間、やがてぽつりと返されたのは小さな声。
「…私には…無理かも、しれない…」