第4章 柱《壱》
「よもや鬼の少女も興味が湧いたか? 桜餅というものはだな」
「いえ大丈夫です。食べたことありませんし、あっても今じゃ食べられませんし」
「む」
「ということでお帰り下さい」
深々とまた頭を下げれば、見開いた大きな目はそのままに彼は沈黙を作った。
沈黙なんて珍しいから、つい盗み見すれば懐を何か探っている。
またお菓子でも出すのかな、と思えば予想外のものを目にした。
あれは…竹筒?
一寸に満たない程の長さの竹筒。
その竹の両端に、布のような紐が付いてある。
なんだろう、あれ。水筒?
「鬼の少女。俺は君を信用はしていない」
はっきりと言われた言葉に、今更ながら落ちる自分がいて内心自分を叱咤した。
そうだよ、だって此処は鬼を滅する組織なのに。
あの人も鬼を狩る側の人間だ。
「だが知りたいとは思っている。折角生かされた命、無益に時を過ごすよりよくはないか?」
「…その竹筒は、なんですか」
「念の為の"保険"だ。連れ出すなら、これを使えと冨岡に言われてだな」
あの人が…ってちょっと待って。
連れ出す?
連れ出すって、今そう言ったの?
「出す、って…何、を…」
「君をに決まっているだろう」
突然のことに思考がついていかない。
そんな戸惑う私を尻目に、手にした竹筒を檻の隙間から差し出して、彼はいつものように声を張った。
「どうだ、鬼の少女。俺と月見の散歩でも!」