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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 刹那。
 蛍の後ろで動く人影を、炭治郎の目が捉えた。


「危ないッ!」


 反射的に飛び出して、並んでいた蛍と禰豆子の体を押す。
 紙一重。
 蛍の頭の上を、きらりと輝く何かが振り払った。


「炭治郎っ?」

「ぅムうッ」


 咄嗟に禰豆子を庇うように抱いた蛍が振り返る。
 見えたのは、炭治郎と対峙するように立つ少女だった。

 三つ編みのおさげの少女は、手に鋭い錐を持ち構えている。
 蛍の頭上を振り払ったのは、あの鋭い切っ先だ。


「大丈夫!?」

「俺は大丈夫だ! それよりこの人達、鬼に操られて──」

「邪魔しないでよ! あんた達が来た所為で夢を見せてもらえないじゃない!」


 杏寿郎と縄で繋がれていた少女は、蛍の目と炭治郎の嗅覚で人間であることはわかっていた。
 だからこそ鬼に操られた一般市民なのか。
 炭治郎のその疑いは、瞬く間に裏切られた。

 鬼気迫る形相で叫ぶ様は、感情の剥き出した人間そのものだ。
 とてもじゃないが操られているようには見えない。


「自分の意思で…?」


 驚く炭治郎の視界に、おさげ少女以外の人物が映り込む。
 善逸と伊之助と繋がっていた少女と、青年だった。
 彼らもまた錐を手に、強張る表情でこちらを睨み付けてくる。

 そこにはありありと人の感情が映し出されていた。
 決して友好的ではない、敵対するような目だ。


「ウゥ…!」

「! だめ禰豆子っじっとしててッ」


 少女の剣幕に、禰豆子が僅かな呻りを上げる。

 禰豆子は人を傷付けない鬼だが、何より大切な家族は炭治郎だと認識している。
 そこに牙を剥かれては良い顔ができるはずもない。

 それでも禰豆子は鬼なのだ。
 言動に戸惑いもしたが身振りからして一般市民の少女達に手を出してはならないと、咄嗟に蛍は腕の中の幼女を強く抱きしめた。

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