第33章 うつつ夢列車
くい、と袖を引かれる。
見れば、幼子姿の禰豆子がこちらを見上げていた。
何かを訴えるように、小さな頭をずいと寄せてくる。
「ム!」
「ん?」
「ぁ…多分、褒めてもらいたいんだと思う」
「褒める?」
「ご、ごめん蛍。禰豆子は幼い子供みたいな状態だから、せがまれることがよくあるんだ。甘えたい時とか、何かを手伝った時とか。でも俺にしか要求してこなかったのに…」
「ぇ…何それ可愛い」
申し訳なさそうに伝えてくる炭治郎とは裏腹に、盛大にきゅんとした胸を押さえて蛍は屈み込んだ。
「そっかぁ。禰豆子、自分の判断でお兄ちゃんを起こすお手伝いしてくれたんだよね? 偉いなぁ」
「ムふふ~♪」
「うんうん。偉い偉い」
「ムンムン!」
「うんうん。可愛い。偉い。禰豆子が一番」
よしよしと頭を撫でながら、ついでにぎゅうっとハグも一つ。
きゃらきゃらと嬉しそうに笑う少女の声は、余計に蛍の胸も弾ませた。
「なんかごめんな、蛍」
「ううん。全然。寧ろこちらがありがとうございます」
「そ、そうか?」
真顔で深く頷いて、再度禰豆子の頭を優しく撫でる。
「それでね、禰豆子。もう一つお願いがあるんだけど」
「う?」
「皆の縄を切ってくれたでしょ。禰豆子の炎で。それで今度は、私達が買った列車の切符も焼いてくれないかな」
「切符を?」
「うん。鬼の匂いがそこからもしたなら、血鬼術が関与してる可能性がありそうかなって。いつから夢の中に入ってしまっていたのかわからないけど、試せるものは全部試してみないと」
周りは蛍と炭治郎と禰豆子以外、起きている者は一人もいない。
杏寿郎や善逸達は勿論のこと、他一般乗客も全員眠りに落ちている。
ただし其処に車掌の姿だけはない。
最後に見かけた時、その生気の無さになんとなく蛍の気にかかっていた男だ。
故に印象のあった、切符が脳裏に浮かぶ。
「そうか、わかった。禰豆子、頼めるか?」
「ム!」
「おお、いい返事」
「よし、頼んだぞ!」
挙手して頷く禰豆子に、ぱちぱちと小さな拍手を送る蛍と、拳を握る炭治郎が笑顔を見せる。