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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 炭治郎は鼻が利く。

 鬼の匂いは微かにしていた。
 なのに夢の中の何処を捜しても鬼は見つからない。
 膜がかかったような微かな鬼の匂いは、夢の中の何処からでもした。
 つまりは夢全体が鬼の息のかかった領域。

 最初にそれを気付かせてくれたのは、水汲みをした時に水面に映った自分自身だった。
 隊服姿の自分が、目を覚ませと叫んでくる。
 起きろ、これは夢だ。攻撃されている。

 その叫びに、異常な状態だと気付けたのが一度目。





『炭治郎、刃を持て。斬るべきものはもう在る』





 二度目は、背後に現れた亡き父の言葉だった。

 振り返った時にはもう誰もいない。
 舞う雪の中で、炭治郎は漠然とその意味を理解した。

 水面に映った自分自身も、背後に現れた父も、炭治郎の本能が気付いていたからこそ現れたもの。
 ただ、まだ理解には及んでいなかった。




『斬るべきもの…目覚める為に……わかった…と、思う。でももし違っていたら? 夢の中の出来事が現実にも影響する場合、取り返しが…』




 そこでようやく理解した。
 半信半疑だったが、突破口はそこには見つけられなかったからだ。

 迷うな。やれ。
 "夢の中の死"が"現実の目覚め"に繋がる。

 つまり斬るのは──自分の頸だ。










「それで、自分の頸を斬ったの?」

「うん」

「…すごい、ね…」


 思わず目の前の、年下の少年を蛍は凝視した。

 自分は鬼だから、まだいい。
 斬ることへの恐怖はあっても、いずれ再生するという保険はある。

 しかし炭治郎は人間だ。
 その頸を跳ねてしまえば、先にあるのは世の理で言えば死しかない。

 夢からの目覚めの為だとその疑いを跳ね除けて、保証もない中で決断を下したのだ。
 一人、誰もいない夢の中で。


「起きた後は、縄や電車の切符から鬼の匂いが微かにすることに気付いたんだ。だから縄を、禰豆子の炎で焼いてもらった」

「それでも皆、起きないんだね」

「そうなんだ…どうしたら…」

「でも息はしてる。死んだ訳じゃない。後は…」

「ムウ…ムムゥ~」

「ん? なぁに、禰豆子」

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