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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「蛍ちゃん…どうして、」


 俯いたまま、目の前の全てを否定する。
 蛍のその姿を一心に見つめたまま、呼びかける声が震えた。


「どうして、そんなことを言うの…?」

「…っ」

「私が此処にいるのは可笑しなことなの? 私が、蛍ちゃんと一緒にいたいって。強く願ったから実現した未来かもしれないって。なんでその可能性は考えてくれないの?」

「だってそれは」

「あり得ないから? 鬼だった蛍ちゃんならわかるでしょう。その能力は人の力では及ばないところまで手を伸ばすことができる。そのお陰で、私が此処にいるかもしれないって。どうしてそう考えてはくれないの?」

「…それは…」

「私が例え蛍ちゃんの本物のお姉さんじゃなくても。全てが偽物だったら、こんなに私の心は蛍ちゃんに向いたりしないわ。私のいちばんの願いは、蛍ちゃんの幸せだから」


 俯く蛍の頬に、そっと柔らかな掌が触れる。


「私の全てを受け入れなくてもいい。でも私の全てを否定はしないで」


 導かれて、蛍の顔がゆっくりと上がる。
 苦痛を呑み込むような痛々しい目を向ける蛍の視界に、変わらない姉の顔が映し出される。


「私達、いつも世界に二人だけだったでしょう?…貴女に突き離れることが、私は何より辛いのよ。蛍ちゃん」


 柔らかな微笑みで、泣きそうな瞳を揺らして。
 震える語尾を噛み締めて抑える。


「っ…姉…さん」


 そんな姉を前にして、心臓が揺さぶられるようだった。
 頬に触れる手を、引き寄せる腕を、体温を、突き放すことなどできない。


「蛍ちゃんが芯の強い子だってことは、姉さん、ちゃんとわかってる。でもね。その分、人一倍哀しみや苦しみを呑み込んで抱えてしまう子だってことも、わかってる。わかってるから放っておけないの。傍にいたいのよ」


 手繰り寄せられた体は、優しい抱擁に包まれた。
 見覚えのある七宝柄の着物に顔を埋めて、懐かしさを覚える姉の匂いに身を預ける。


「姉さんのたった一つの我儘を、聞いてはくれないかしら」

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