第8章 むすんで ひらいて✔
たかが桜餅でとも思うが、俺達人間からして人の血肉を口にすることが禁忌であるのと同様。
鬼の彩千代の体には、悪影響でしかない物だったんだろう。
顔は蒼白。足取りも覚束無い。額には脂汗。
細かに見れば、現状悪化しているのはわかった。
予想ではなく確定として告げれば濁った瞳が大きく見開く。
それも束の間、やがて彩千代の体は力無くその場に膝を折った。
「…気持ち、悪い…です…」
やはりな。
うぷりと頬を膨らませて嗚咽の予兆を感じさせながら、蹲った体は簡単には立ち上がろうとしない。
仕方ないと溜息をついて、その前で俺も膝を折った。
「乗れ」
彩千代に背を向けて。
「え…?」
「歩くのも限界なんだろう。檻まで運んでやる」
「で、でも…」
「いいから乗れ。悠長にしていたら甘露寺に見つかってまた泣かれるぞ」
「っ」
脅し文句は効いたようだ。
小さく丸く縮めた体をそのままに、のそのそと彩千代の体が俺の背に乗る。
背負い上げれば、不死川の所で担ぎ上げた時より軽く感じた。
あの時は彩千代も完全に気を失っていたからな。
意識の無い者を運ぶ方が、余程力が要る。
「…ごめん…」
「謝る必要がどこにある。俺はやるべきことをやっているだけだ」
俺の意見に異論はなかったんだろう。大人しく口を閉じた彩千代をそのままに、ようやく炎柱邸を後にした。