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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第8章 むすんで ひらいて✔



 威勢よく握り拳を見せてくる煉獄を受け流して、彩千代の着物の袖を掴む。
 またふらふらと覚束無い足取りになってしまった彩千代を歩くよう催促して、早めにその場からの移動を決めた。


「野外での彩千代のことは一任されている。後は任せて貰いたい」

「しかしこのまま彩千代少女を放るのも…せめて汚したところは綺麗にしていくといい」

「ぁ…ご、ごめん汚して…すぐ拭く、から」

「いや。俺の手や床の話ではない」

「っ」

「…ここの話だ」


 口に突っ込んだものとは逆の手で煉獄が触れたのは、嘔吐した彩千代の口周り。
 先程の無理な嘔吐法を思い出したのか、彩千代の顔が僅かに強張る。
 それを煉獄が見逃すはずもなく一度動きを止めるも、伺うようにそっと再度口周りに触れた。

 嘔吐物の汚れを気にすることなく、ゆっくりと丁寧な動作で口元を拭っていく。


「桜餅も嘔吐も、きつく気持ちの悪いものだっただろう。次からは軽率なことは控えるようにする…すまなかったな」

「ん…う、ん」


 声量を抑え静かに労う煉獄に、大人しく拭われている彩千代の顔が蒼白ながらもほんのりと染まった。
 青くなったり赤くなったり忙しないな。






 煉獄とのやり取りを経て、律儀に皆に頭を下げる彩千代を待ってからようやく道場を後にした。

 最後まで煉獄は付き添おうとしていたが、弱った彩千代を目の当たりにして強く出られなかったんだろう。外部では俺の役目だと再度告げればそれ以上は口を挟んでこなかった。
 甘露寺も相変わらず涙顔だったが、伊黒が傍にいるから問題はないはずだ。

 それよりも問題は彩千代本人だ。
 もたもたとついてくる姿に目を向けることなく、黙々と長い廊下を通り玄関を出て砂利を踏む。


「…? ぎゆ、さ…?」


 そこから檻の道へは進まず、直角に曲がって屋敷の一角で足を止めた。
 顔色悪く頸を傾げている彩千代に、ようやくそこで目を向ける。


「もういい」

「?」

「此処には俺だけだ。他には誰もいない」

「それ、が?」


 足早に出てきたのも煉獄の申し出を頑なに断ったのも、この為だ。
 複数の目があれば、こいつはきっと耐えるだろう。


「痩せ我慢は止めろ」

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