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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「うーん…困ったわねぇ。でも本当の出来事なのよ? それに蛍ちゃんの見ていないところで、ちゃんと杏寿郎くん達とは仲良くやっているから。心配はいらないわ」

「それは…心配は、してないけど…」


 唇を尖らせながら不服さを残して、ぷちぷちと小さな芽を摘み取っていく。
 心配はしていない。
 ただその場に自分もいたかったと、後から聞けば聞く程に後悔が生まれるだけなのだ。


「それより私は、蛍ちゃんと杏寿郎くん達が仲良くしている方が嬉しいの。二人が何処へ行って、何をして、どう楽しんだのか。お話を聞かせてもらえるだけで姉さんも嬉しくなるのよ」

「……」

「さ、お庭のお手入れはこれくらいで十分。体を休めましょう、蛍ちゃん」

「…まだ少ししかしてないよ」

「十分よ。お腹も大きくなったんだし、大変でしょう」

「そんなことないよ。私はただ座ってるだけだし。姉さんの方が朝からずっとお手入れしてるでしょ」

「私はしたくてしているの。次の働き口が見つかるまで、体をなまらせないようにね。ほら、蛍ちゃん」


 ぱんと足に付いた葉を払い、松の木の根元に座っていた蛍へと手を差し出す。
 土の上へと顔を出した太い根に器用にちょこんと座っていた蛍が、両手を膝に置いたままじっと見上げた。

 どんなに成長しようとも、どんなに体が母へと変わろうとも。まるで幼い頃の妹を見ているようで、姉の表情にも優しい笑みが浮かんだ。


「…なんで笑ってるの姉さん」

「ふふふ。なんでもないわよ~」


 その拗ねを見せる理由は、なんとも可愛らしいものなのだから。顔も綻んでしまうというものだ。


「絶対わかって笑ってる…」

「ふふ。ん?」

「ん。あのね、私は姉さんに早くこのおうちに馴染んで欲しくて…」

「はいはい。ふふふ」


 差し出された手を握り、蛍も重い腰を上げる。
 幼い子の手を引くように、先を歩く姉の顔は柔く微笑ましい。
 まるで妹の小言が子守歌かのように、耳に心地よく浸透していく。

 聞けば聞く程、愛の溢れた声だ。

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