第33章 うつつ夢列車
それからというもの。同じ時間を過ごしたいと願えば願う程、すれ違いの毎日に蛍は肩を落とすようになった。
最初は溜息と共に落としていた肩が、やがて頸を傾げる仕草に変わったのは日も浅くない頃。
いくら男女五人が住まう屋敷が広いものでも、こうも顔を合わせる機会はないものか。
訊けば、蛍の知らないところで姉や義弟達は交流をしているようだが如何せん見たことはない。
「もしかしてわざと?」
「え?」
思わず真顔で問いかけた昼下がり。
庭の草木の手入れをしていた姉が、きょとんとこちらを見ていた。
「姉さん。槇寿郎さんや杏寿郎達と最後に食事をしたのはいつ?」
「槇寿郎さん達と? さぁ、いつだったかしらね…一昨日かしら」
「違うよ、一昨日はいなかった。松風さんへの手紙を出しに行ったまま、帰りは遅くなってたでしょ」
「そうだったわね。いつも利用してる郵便屋さんが閉まっていたから、もう一つ町の外れまで行っていたから」
「その次の日はお隣さんとのお出かけの際に事故があって。今日はまさかの食材切れ」
「大変だったわねぇ、あの大通りでの人身事故。お隣さんは人混みの雪崩にぶつかって足首を捻っちゃったのよね」
「それはまだ仕方ないけれど、朝あったはずの野菜が全部消えてるってどういうこと」
「それ、西通りの早間さんのおうちのお馬さんの所為ですって。馬小屋を逃げ出してあちこち摘み食いしてたみたいで」
「ハイそこ!」
「そこ?」
「何その作り話のような出来事は! 同じ屋根の下にいるっていうのに全く会わないなんて。その理由が普通じゃ起きないようなことばっかり!」
「そお?」
「そうですッ」
きょとんと目を丸くする姉の前で、ぶちりと力任せに雑草を引き抜く。
姉には休んでいるようにと言われたが、どうしても二人で話がしたかった。
その思いの丈が、ここ数週間の出来事だ。
振り返ればまるで作り話のような数々。
誰かに仕組まれているのではと思えるくらいに、何かと皆の時間は都合が合わない。