第33章 うつつ夢列車
「彼女にも彼女の都合がある。食卓はまた別の機会に囲めばいいだろう」
「…そうですね」
屋敷の大黒柱である槇寿郎の許しがあるなら、咎めることもない。
苦笑混じりに頷くと、蛍も自身の食事が並べられた御膳の前に座り込んだ。
(そういえば結局、あの後のアイスクリンも一緒に食べられなかったっけ)
杏寿郎と千寿郎が帰宅した後、二人に誘われて二つめのアイスに蛍も舌鼓をうった。
煉獄兄弟と賑やかに食べる冷たい甘味もまた美味で、楽しい時間だったがその場に姉はいなかった。
槇寿郎は性格上、余り余興を共にしないが姉ならば可能なことだ。
(今度、私が甘味を買ってこようかな)
できるなら槇寿郎も好みそうな、酒に合う甘味でも買ってこよう。それなら皆で味わうことができるかもしれない。
うんと頷くと、蛍は目の前のみぞれ煮に顔を綻ばせて両手を合わせた。
「いただきます」
「千くん。今、姉さんと赤子用の衣服を作ってて。この半纏ってもう使わない?」
「はい、それは手直ししても構いませんが…赤ちゃん用にしては大きくないですか?」
「これはねんねこ半纏にしようと思って」
「成程。これから寒くなってきますもんね」
「うん。千くんも時間あるならつき合わない? 千くんがいてくれた方が、手直しする衣類も手早く決められそうだし」
「お手伝いしたいのはやまやまなんですが、これから和尚様の所へ用事があって…」
「八幡神社の? そっか、残念」
「また誘ってください」
「うん。気を付けて行ってきてね」
「姉さん、杏寿郎がおやつを作ってくれたの。一緒に食べよ」
「あの薄切り揚げ芋ね。蛍ちゃん好きよねえ。芋けんぴはそんなに食べなかったのに」
「芋けんぴとは別物だもん。甘じょっぱくて美味しいの。杏寿郎のお芋は」
「ふふ、そうね。私も好きだけれど…ごめんなさいね。今手が離せなくて。お隣さんに沢山えんどう豆を貰っちゃったから」
「下処理? 私もしよっか」
「大丈夫よ。折角杏寿郎くんが作ったおやつだもの。一番に蛍ちゃんに食べて欲しいはずよ。いってらっしゃい」
「でも…」
「後で私にもお裾分けしてくれたらいいから」
「…わかった。また来るね」