第33章 うつつ夢列車
「でも私には犬というより、大きな獅子かなぁ」
「それは立派ねえ、獅子さんもとっても似合いそう。でもあの姿を見てると可哀想に思えてくるのよ? わんちゃんでも獅子さんでも」
「ふふ。うん」
真面目な顔で力説する姉も、容易に想像できてしまう大きな背中を丸めてしゅんとする杏寿郎も、なんだか可笑しくて。
「ごめんね姉さん。ちゃんと杏寿郎と話すよ」
可笑しいけれど、それ以上に愛おしくて。
くすくすと笑いながら、蛍はうんと自分に言い聞かせるように頷いた。
「だから私がまた落ち込んでいたら、喝を入れてもらってもいい?」
大して痛くはない先程の指弾きを思い出しながら、額を撫でて振り返る。
頸を傾げて問いかける蛍からは、弱音をほんの少し混ぜた甘い声が届いて。
「勿論。私はお姉さんだもの」
とんと己の胸を叩いて、嬉しそうに姉は笑った。
「背中をうんと押して、たっくさんよしよししてあげる」
「何それ。喝を入れてるのか甘やかしてるのか、どっちなの」
「私の蛍ちゃんは頑張り屋さんだから。自分にも周りにも頑張って、躓いちゃうことがあるんだもの。よくできましたって褒めるのは当然のことでしょう? それから喝を入れるのよ」
「…私が甘えん坊なのは姉さんの影響もあるのかもなぁ…」
「あら。甘えん坊の自覚があったの? 蛍ちゃん」
「わ、私だって冷静に自分観察くらいできるよ。姉さんだって甘やかしてる自覚あった? 私に」
「これは普通でしょう。だって私は蛍ちゃんのお姉さんだもの」
「……」
「なあに? そのお顔」
「や…今、張り切ってお兄さんの役目を全うしている時の杏寿郎の顔が浮かんだだけで」
「杏寿郎くんも良いお兄さんだものねえ」
「うん。ある意味、姉さんとそっくりかも」
「そぉ?…あ。もうこんな時間ね。そろそろ杏寿郎くん達も帰ってくるんじゃないかしら」
「じゃあお迎えの準備しようかな。今日は一段と暑いし」
「なら冷たい井戸水でも汲んでおきましょうか」
「うん」