第8章 むすんで ひらいて✔
ぜぃぜぃと荒い息をつく姿は煉獄の稽古直後のものと変わらない。
しかし意味合いは異なる。
それは明らかな拒絶反応だった。
「だっだっ大丈夫!? 蛍ちゃんんん!!」
「ぅ…ん…ゲホッ」
煉獄の手が退いた後も何度か嘔吐を繰り返し、ようやく彩千代は体の震えを静めた。
しかしその顔はさっきよりものっぺらと蒼白いものに変わっていて心無しか呼吸も荒い。
…まさかとは思うが。
「桜餅に中(あ)てられたか」
「えぇええ!? そ、そうなの!? ごめんねぇ蛍ちゃあん!!」
「だ、大丈夫…」
じゃないだろうどう見ても。
また嘔吐しそうな血の気の退いた顔では、何も説得力はない。
まさか桜餅一つでここまで体力が落ちるとは。
鬼にとって人の食糧は毒物となるのか……それとも。
「わ、私が勧めたから…! 本当にごめんなさいぃいい!!」
「落ち着け甘露寺。勧めたのは俺も同じだ。甘露寺一人の所為じゃない」
「だ…だい、じょぶ…」
じゃないだろう。
「煉獄、今日の稽古はここまでだ。休ませた方がいい」
「む…そうだな…」
土下座する勢いで謝罪する甘露寺は伊黒に任せて、煉獄に提案する。
このまま此処に彩千代を置いていたら罪悪感でも覚えて無理をするだろう。
そこに更に甘露寺が責任を感じれば、悪循環になり兼ねない。
その前にさっさとこの場から撤退させた方が良さそうだ。
「戻るぞ彩千代。身支度をしろ」
「…ぇ?」
「戻るの!? じゃあ私が蛍ちゃんを運んで…!」
「問題ない。伊黒、甘露寺は任せた」
「仕方ない。今回はお前に賛同してやろう」
頼み込めば、珍しくも即答で受け入れられた。
しかし彩千代を心配しているのは甘露寺一人だけではない。
「ならば俺がついて行こうか? 彩千代少女」
「ぇ…ぁ…」
もたもたと身支度をしながら、煉獄の提案に彩千代の目が向く。
そのどんよりと濁ったような色合いの目に、思わず溜息をつく。
「長時間彩千代の稽古につき合ったんだ。煉獄も休め。後は俺が連れて行く」
「俺はまだまだ元気だぞ!!」
見ればわかる。