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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第8章 むすんで ひらいて✔



「これを食べられたら、杏寿郎達に近付ける?」

「無論!」

「疲れた時は甘いものって言うし、どうぞ食べて食べてっ」

「人の血肉を喰える鬼だ。桜餅の一つや二つで死にはしないだろう。甘露寺が持って来てくれたものださっさと食え」


 周りの柱達に勧められて、ごくりと唾を呑み込む仕草を見せる。
 やがて意を決したように彩千代は口を開いた。

 鋭く大きな犬歯の見える口が、柔らかな餅をあむりと喰む。
 恐る恐ると言うように、半分齧った桜餅を口の中で咀嚼した。
 一、二度。頸を傾げながらも尚も咀嚼する姿に拒絶反応は見られない。
 固唾を呑むようにして見守っていた甘露寺達が、やがて歓喜の表情を見せた。


「やったわ蛍ちゃん! 食べられたわね!」

「鬼は血肉しか喰わないと思っていたが…驚いたな」

「凄いぞ彩千代少女! これで君の新たな道が…彩千代少女?」


 しかしそれも最初だけだった。
 飲み込むような仕草で余りの桜餅も口の中に入れていた彩千代が、不意にぴたりと動きを止めたからだ。

 誰の目にもわかる程の勢いで、彩千代の顔から血の気が退く。
 みるみるうちに青くなる顔に、流石にまずいと直感してその場を立った。


「きゃあ! 蛍ちゃん!?」


 同時に倒れた。
 卒倒するかのように、真後ろに彩千代の体が。


「む…っ!」


 真っ先にその手を届かせたのは煉獄だった。
 彩千代の背中が道場の床にぶつかる直前、差し込んだ腕で体を抱きとめる。
 彩千代と同じく顔を青くして叫ぶ甘露寺の横を通り過ぎ、俺も即座にその場に駆け寄った。

 煉獄に抱き起こされた顔を覗き込めば、血抜きでもされたかのような蒼白。
 ひゅーひゅーと口の隙間から溢れる微かな呼吸に、一瞬煉獄と目が合う。
 何をすべきか互いに意思は合致していた。
 煉獄が片腕で彩千代を抱えたまま、牙を生やした口の中へと躊躇なく指を捻じ込む。


「んぐ…!?」

「噛むんじゃないぞ」


 口をこじ開けるようにして舌の奥を指先でぐっと押す。
 それに合わせるようにして、俺の手で彩千代の背を強く叩いた。
 すると彩千代が身震いするように体を震わせ飲み込んだものを吐き出した。


「ッぉえ…!」

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