第33章 うつつ夢列車
「そ…そういえば、鬼殺隊に属する鬼がいるって…」
「鬼の癖に人間と群れるなんて、考えていることはよくわからないけど」
禰豆子の木箱に組んだ両腕を乗せ、更にその上で顔を預けて眠る蛍は一見して鬼には見えない。
魘夢のような奇怪な見た目をしていない鬼だが、それを言うならば人間であっても杏寿郎のように日本人とはかけ離れた容姿を持つ者もいる。
「見た目はソレでも正体は鬼よ。下手に手を出したらこっちが喰われる可能性がある」
「おい。魘夢様が聞いてたらどうする」
「魘夢様とこの鬼は違うでしょ」
魘夢は十二鬼月。下弦の壱なのだ。
無名なただの鬼とは違うと、三つ編み少女は冷たい目で一蹴した。
「とにかく、鬼なら手を出さなくていいって言われてるから。縄を結ぶのは人間だけにして」
自分達はただ目的を果たせばいいだけのこと。
中々作業に進まない周りを一喝すると、三つ編み少女は再び杏寿郎に向き直った。
腕に縄は結んだ。
残りの縄は、自らの手首に結ばなければならない。
一見何処にでもある普通の縄に見えるが、これもまた切符同様、魘夢が特別に用意した代物である。
縄を眠りについた対象者に結び付け、残りを自身の体に結び付ける。
そうすることで縄は渡り橋のような役目を担い、対象者の夢の中へと意識を入り込ませることができる。
(これで良し)
己の手首にも巻いた縄を、外れないようにきつく結ぶ。
杏寿郎の向かいには蛍が座っている為、禰豆子の木箱を挟んだ窓際に少女は腰を下ろした。
縄はそれなりに長い。
然程の距離なら腕を引っ張られることもない。
他の者達もそれぞれ腕に縄を結び、空いた近くの座席に座る。
炭治郎と縄で結ばれた色白の少年は、背を向ける形で後ろの座席に静かに座っていた。
少年がこれから入り込む夢の持ち主である炭治郎の寝顔には、大粒の涙がいくつも浮かんでいる。
体が反応する程の涙を流すということは、それだけ感情の揺さぶりがあったということだ。
魘夢が見せているものは幸せな夢。
とあらば。
(泣くほど幸せなものでも見ているんでしょうね)