第33章 うつつ夢列車
三つ編みの少女が魘夢に指名されたのは、鬼殺隊の中でも屈指の実力を誇る炎柱の男だった。
だからこそ緊張が走る。
魘夢が用意した縄を手首に巻かなければならないが、その際に起きてしまわないだろうか。
ふぅーっと緊張気味に深呼吸をしながら、恐る恐ると膝をついて様子を伺った。
杏寿郎は近くで耳を澄ませば辛うじて聞こえる程の、微かな寝息を立てていた。
腕組みをして僅かに俯く横顔は、ただ沈黙しているだけのようにも見える。
(? 顔が…)
だがその硬かった表情にも、僅かな緩急が生まれる。
楽しい夢を見ているのか、ほくそ笑んでいる善逸やフガフガと鼻を鳴らす伊之助とは違う。
ほんの僅かだが口角が緩み、何を考えているのかわからなかった表情に感情が生まれる。
この男もまた、幸せな夢を見ているのだろうか。
(眠りが深くなっていってる証だ)
魘夢が見せる夢は、その者が何よりも欲している幸せを具現化したような夢だ。
だからこそ深い眠りに囚われ、容易には起きなくなる。
これだけ近付いてもぴくりとも反応しない柱の寝姿こそ確固たる証拠だ。
これなら大丈夫だろうと、慎重に縄を杏寿郎の腕に巻いていく。
腕組みは流石に解けずに、四苦八苦しながらどうにか脇の隙間から縄を通して輪を作った。
「縄を繋ぐのは腕ですか?」
「そう。注意されたことを忘れないで」
伊之助の前に座り込んでいた少女が疑問を口にする。
簡潔に答えながら、三つ編み少女もまたぎゅっと固めに縄の結び目を作った。
「けどこの人数だと一人足りないぞ」
「その女だけは縄を繋ぐ必要はないと魘夢様が言っていたわ」
「なんで?」
「鬼だからでしょ。話を聞いてなかったの?」
「鬼っ?」
善逸の腕に縄を括り付けていた少年が、三つ編み少女の指摘にぎょっとする。
その目は、木箱に凭れて眠る蛍へと向いていた。