第33章 うつつ夢列車
「はい。姉上もお手伝いしてくれますか」
「お手伝いじゃないよ、千くん。私もこの家の一員だもん。作るのは当然のことだから」
「そうだな。では俺も夕餉作りをするとしよう!」
「へ。」
「え。」
「ん?」
「あー…じゃあ杏寿郎は、味見役ね」
「味見役か! それもまた大事だが二人の料理なら味もよく知っている。美味いに決まっているだろう!」
「でも万が一ってこともあるし。ねぇ千くん」
「そうですね。味見役は大事です。はい」
「うん」
「そうか?」
「「そうそう」」
「ふむ…だが俺も何か料理をしたい。味見だけとは頂けない」
「ええ、と…では兄上は、お野菜を洗ってください」
「あ、それいいね。あとはお米を研ぐとか」
「ふむ。野菜と米か。了解した!」
明るく笑って頷く杏寿郎の腕の中で、ほっと息をつく蛍と千寿郎。
その目がかち合うと、どちらからともなくぷすりと笑い出す。
明るく太陽が照らす玄関前。
賑やかに、軽やかに、飛ぶ笑い声は途切れることなく続いていた。
いつまでも。
──いつまでも。
「……」
すぅすぅと幾つもの寝息が静かな車内で上がる。
その中で特に寝息を立てず、深く呼吸を繋げる男を見つめる者がいた。
前髪をぱつんと綺麗に揃えた黒い三つ編みの少女。
澱んだその目が見つめる先には、腕組みをしたまま体躯を1㎜も傾けることなく席に座り眠る杏寿郎がいる。
後から合流した、下の者と思われる鬼殺隊の少年達。
彼らと揃って、柱であるこの男も魘夢の術にかかり眠りについた。
どんなに強い鬼狩りだって関係ない。そう言っていた魘夢の言葉は事実だった。
どんなに実力があろうとも、人智を超えた鬼の術を前にして人間は無力となる。
(私も、その術で──)
だから手を伸ばすのだ。
剣士の力さえ持たない愚鈍な自分では、叶えられない夢を見せてもらう為に。