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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「俺だって禰豆子ちゃんを射止めたいんですよぅ!!」

「その心意気は汲むが、大事なのはその鬼の少女の心だ! 方法ではなく、彼女の心と向き合うことを一番に考えることだな!」

「待って下さい煉獄さん! 禰豆子をどうこう言うのなら、兄である俺をまず通してくれないと!」

「ふむ! 確かに!」

「それじゃあ親分であるオレ様も通さねぇとなァ!!」

「ふむ! 成程!!」


「いやだから待って何それ」


 継子がどうだという話から、禰豆子がどうだという恋だの愛だのの話に変わっている。
 そう突っ込みたいものの、はきはきと通る声で全力で会話するような炭治郎達には入り込む余地がない。
 居場所を失った片手を半端に上げたまま、蛍は徐に息をついた。


「…ま、いっか」


 溜息ではない、苦笑混じりの吐息だ。
 荒れ果てた列車内で和気あいあいと会話する彼らは、どう見ても場違いなもの。
 なのに自然と気にはならなくて、くすりと口元に小さな笑みが浮かぶ。

 鬼殺隊は明日をも知れぬ身。
 今彼らが楽しそうに笑い合えているのなら、それでいいじゃないか。


「炭治郎はまだわかるけどなんで伊之助にまで許可貰わなきゃならないんだよ!?」

「親分のものは親分のもの。子分のものは親分のものだジョーシキだろ!」

「伊之助、それは違うぞ。禰豆子はまず物じゃない」

「よくぞ言った竈門少年! 親分子分の概念は許せてもそこは許し難いものだ。ということで蛍の物扱いも受け付けないぞ!」

「うわあ急な飛び火きた」

「ならば蛍は猪頭少年の所有物を望むのか!?」

「そこまでは言ってないけど。というか私をその会話に巻き込まないで下さい」


 やんややんやと賑やかな会話の中で強制的に浮上する自身の名。
 見守るつもりが参加せざるを得なく、蛍は苦笑したまま仕方なくと踏み出した。

 逃がした乗客達のことなど、忘れて。






























「──すぅ…」


 ガタタン、ゴトトンと車輪が回る。
 規則正しく揺れる列車の中で、静かに漂う寝息がひとつ。ふたつ。みっつ。

 其処には鬼の脅威など忘れて眠りこける炭治郎達の姿があった。

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