第33章 うつつ夢列車
「手短に終わらせよう」
鬼のいる車両に入ってきてから、杏寿郎は常に口元に笑みを貼り付けていた。
それは今も変わることなく、炭治郎の横を通り過ぎると予備動作もなく駆け出した。
真っ先に倒すべき存在だと認識した鬼もまた、長い無数の手足を駆使して猛進する。
一触即発。
吐く息さえ届きそうな距離まで詰めた時、鬼は鋭い爪を振りかざし、反して杏寿郎は身を低く鞘に収めていた刃の鍔を親指で押し上げていた。
〝炎の呼吸──弐ノ型〟
抜刀と共に大きく円を描くように振り上げられる刃。
それは日輪を思わせるような軌道を作り、炎の輪を作り出す。
呼吸弐型、昇り炎天。
ザンッ!と鬼の頸が日輪の炎により焼き斬られる。
振り上げた爪は杏寿郎へと届くこともなく、頭を失った体はがたがたと震えるようにして崩れ落ちた。
長い四肢は周りの座席を薙ぎ払い、その瓦礫に埋もれるように朽ち落ちる。
あんなにも乗客を恐怖に陥れていた鬼を、いとも簡単に続けて二体斬り倒した。
その様に、両手で握りしめていた炭治郎の刀が震える。
「す…す…っすげぇや兄貴! 見事な剣術だぜ!」
負の感情からくる震えではない。
歓喜の震えだ。
「おいらを弟子にしてくだせぇ!!」
「いいとも! 立派な剣士にしてやろう!」
「オイラも!」
「おいどんも!!」
「皆まとめて面倒を見てやる!!」
「…ぇぇぇ…」
まるでキャラが変わったかのように、わらわらと杏寿郎に集う炭治郎達。
それだけ杏寿郎の腕前に興奮しているのなら、理解できなくもない。
ないが、それでも思わず蛍は一人後方で小さく零した。
竹を割ったかのような杏寿郎の反応は相変わらずだが、秒で懐く伊之助達の変わり様には目を疑う。
「やったぁ! 兄貴ぃ!」
「煉獄の兄貴ィ!!」
「はっはっはっは!!」
「じゃあ早速! 兄貴に質問!」
「うむ! いいぞ黄色い少年!」
「鬼である蛍ちゃんをどうやって射止めたんですかっ!?」
「その質問以外なら受け付けよう!!」
「兄貴ィ!?」
「いや待って何それ」
反応は勿論のこと、内容も内容なだけに思わず突っ込みを入れてしまった。