第33章 うつつ夢列車
ゴォオオン!と獣とも似つかぬ、寒気がするような唸り声を鬼が上げる。
周りの乗客や座り込んだままの善逸が悲鳴を上げる中、杏寿郎は刀の棟(むね)を己の体に沿えるようにして構える。
〝炎の呼吸──壱ノ型〟
幾つもの篝火が連なるようにして、一つの炎の道筋を作り出す。
その線をなぞるように刃が走ることで、目にも追えない速さで鬼の頸を焼き斬る。
まるで炎が噴き出すかのような一撃。
それが壱ノ型、不知火(しらぬい)。
ゴゥッ!!
勝敗は一瞬だった。
鬼が駆け出す瞬間、先手を取った杏寿郎の体は既に空(くう)を跳び鬼の横を通り過ぎていた。
体に回転をかけて斬り込んだ刃は、一瞬にして鬼の屈強な頸を斬り落とす。
更に体を捩じり回すと、鬼の背後にあった車両扉を突き破り、隣の車両で着地した。
「す…凄い…一撃で鬼の頸を…」
一呼吸で終えるような、一瞬の出来事。
余りに鮮やかな鬼退治に、炭治郎は唖然と開いた口を閉じることができなかった。
背を向け鋭い双眸だけで鬼の抹消する姿を確認した杏寿郎が、更に先を見据える。
「もう一匹いるな…蛍!」
「っはい」
「ついて来い」
閉ざされた次の車両扉の向こう側。
其処に新たな鬼の気配を感じて、抜刀したまま駆け出す。
鋭い柱としての指示に、蛍も弾けるように駆け出した。
「蛍ちゃ…っ」
「俺も行きます!」
「えっ!?」
「っしゃァ!!」
「えぇッ!?」
後に続く炭治郎と伊之助に、慌てふためいたのは善逸だ。
傍にいた蛍の温もりを求めるように手を伸ばして、わたわたと立ち上がる。
「ぉ、置いて行くなよォオオ!!」
幾らこの場の鬼を退治されたからと言って、再び現れないとも限らない。
一人でいることの方が余程恐ろしいと、へっぴり腰のまま善逸も後を追ったのだった。