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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 ──パチン、


 改札鋏の鋭い刃(は)が、切符の端を切り離す。
 刹那。天井の照明が一瞬、光を消した。


「!?」


 闇は瞬くようなもので、次の瞬間には通常の明るい列車内に戻っていた。
 しかし同時に席を立った炭治郎が、険しい顔ですんと鼻を鳴らす。

 何故かはわからない。
 ただ嫌な匂いがする。


「拝見…しました…」

「ぁ…はい」


 ぽつりぽつりと糸が切れた人形のように、儚い声で車掌が切符を蛍へと手渡す。
 受け取りながら蛍は見上げたまま、車掌から目を離せないでいた。

 何故かはわからない。
 ただ何かこびり付くような違和感を覚えて。


「車掌さん。危険だから下がってくれ」


 曖昧な空気を変えたのは杏寿郎だった。
 席を立つと、ばさりと羽織を広げ隠していた刀を手にする。


「火急のこと故、帯刀は不問にして頂きたい」


 その目は車掌を見ていない。
 真っ直ぐに貫く双眸を向けていたのは、車掌が現れた車両扉。
 そのすぐ手前に、ずんぐりとした大きな肉塊があった。


「ひィっ!?」

「キャァア!?」


 いつから其処にいたのか。
 車掌が現れた時はいなかったはずだ。

 狭い車両の道いっぱいに座り込んでいたのは、目を四つ、鼻を二つ、口を二つ持つ鬼だった。
 まるで二つの頭を歪に融合させたかのような風貌で、ぐるぐると喉を呻らせながら立ち上がる。
 巨体を持ち上げれば、鋭い角を持つ頭は簡単に天井につく程だ。

 一斉に慌て出す乗客達の中で、杏寿郎だけは冷静に鬼を見ていた。


「その巨躯を。隠していたのは血鬼術か」


 一句一句、鬼に向けるように重圧のある声で呼びかける。


「気配も探り辛かった」


 その手は日輪刀の柄を握り、ゆっくりと鞘から刃を引き抜く。


「しかし! 罪なき人に牙を剥こうものならば、この煉獄の赫(あか)き炎刀(えんとう)がお前を骨まで焼き尽くす!!」


 抜刀される刃から赤い炎が巻き上がる。
 ちりちりと髪の毛先を燃やしそうな火の粉を纏い、杏寿郎は口元に深い笑みを称えたまま一喝した。

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