第8章 むすんで ひらいて✔
「それにしても本当に汗だくね、蛍ちゃん…」
「ならばまた湯浴みでもしていくか!?」
「え、いいの?」
「何を言ってる駄目に決まってるだろう」
煉獄の提案を即座に否定したのは伊黒だった。
そこには甘露寺に向けた個人的な想いは見えない。
伊黒の言うことは正しい。
お館様と彩千代が対面した後、一度柱達はお館様に呼ばれた。
しかしそこで聞かされたのは、彩千代と話した会話の内容ではない。
今後の彩千代蛍の扱いについて。
隠達に彩千代の存在が伝わり鬼殺隊の中で不安な空気が生まれている以上、今より厳しく監視していかなければならない。
その中で禁止されたことも増えた。
その一つが柱の屋敷でその身を休めること。
故に以前行った炎柱邸での入浴や停泊は禁止となった。
甘露寺は酷く落ち込んでいたな…彩千代以上に。
「鬼は鬼らしく桶の水でも使っていろ」
「むぅ…そうだったな。すまない、彩千代少女。温かい湯なら用意はできる。それで体を清めていくか?」
「ぅ、ううん。いいよ、ありがとう。あんまり長居するのも、いけないことだろうし。稽古だけつけてもらったら後は戻って自分でやるから」
笑顔で頸を横に振る彩千代に、それ以上は掛ける言葉が見つからなかったんだろう。
いつもは威勢の良い煉獄の表情が、彩千代の前で少しだけ陰る。
「その気遣いだけで嬉しいから」
「しかしだな…それだと何かと不便なこともあるだろう。彩千代少女は鬼である前に女子(おなご)でもある。何か欲しいものでもあれば、その時は遠慮なく言ってくれていいんだぞ」
「うん…ありがとう、杏寿郎」
一度も直接見たことがない柔らかな顔を、彩千代は煉獄の前では見せることがある。
その時は煉獄と彩千代の関係が、柱と鬼や師と弟子のようには見えなくなる。
今回のこれがそうだ。
「まぁ♡」
その度に甘露寺が嬉しそうに頬を染めるから、きっと良いことなんだろうとは思う。
…恐らく。