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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第8章 むすんで ひらいて✔



「煉獄さぁーん! そろそろ休憩しませんかー!? 折角お茶菓子もあることだし!」


 口元に両手を当てて呼び掛ける甘露寺に、彩千代へと向き合っていた煉獄の顔がようやく上がる。


「茶菓子か。ふむ」

「今日は桜餅を持ってきたの!」

「桜餅か! そういえば彩千代少女は食べたことがないと言っていたな!」

「ぜぇ…っ…え? さく…?」

「よし! ならばひと休憩といこうか!」


 ふらふらな彩千代には話半分しか届いていない。
 そういえば煉獄との稽古を始めたばかりの頃も、あんな様子で毎夜檻へと帰っていた姿を思い出した。
 あの時はまだ今のような奇妙な違和感はなかった。
 戦いに身を投じたことのない者なら当然の結果だったからだ。

 しかし今の彩千代は、不死川の攻撃も見切れるようになった鍛錬者。
 だからこその違和感を覚える。


「熱いお茶を淹れ直すわね。それとも冷たい方がいいかしら?」

「熱いものを頼む!」

「わ、私は冷たいの、で…」

「鬼の癖して何を言ってる。茶など飲めんだろう」

「…そうでした…」


 びっしょりと汗を掻いた姿で座り込む彩千代の言動は、余程参っていると見える。
 伊黒の指摘に素直に頷くと、意気消沈したように黙り込んでしまった。


「せめて汗は拭け。体を冷やすぞ」

「…ありがとう」


 手拭いを差し出せば、力のない笑顔を向けられる。

 彩千代蛍という鬼は、鬼以前に不思議な奴だと思う。
 過去を詳しくは知らないが、唯一の肉親である姉を残酷な姿で失った。
 その直後は人の話も聞けない程に憔悴していたが、今はこうして色んな顔を見せてくる。
 俺や胡蝶に比べれば随分と感情豊かな奴だ。

 鬼殺隊の中では、己だけ別の生き物となってしまった。
 これだけ狭くて険しい道を歩かされても、その己というものを失っていない。
 その意志の強さだけは、俺や胡蝶を上回るものだ。

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