第33章 うつつ夢列車
驚いたのは炭治郎と善逸だ。
列車の躍動に興奮する伊之助を残したまま、ぽかんと口を開けて二人して、俯く蛍を凝視する。
「まぁ蛍は列車と競争とは言わなかったがな。今の猪頭少年のようにそれは楽しそうにしていた!」
「ちょ、杏…師範」
「え? 蛍ちゃんが? 伊之助みたいに? 信じられるか炭治郎」
「善い」
「少し吃驚したけど、それだけ蛍も楽しい列車体験ができたってことだろう? 良いことだと思う!」
「炭治郎まで」
「ちなみに夜行列車に乗った為、列車内の寝台にもとてもはしゃいでいたんだ。何度思い返してもあれは愛いものだったな!」
「杏っ何言って」
「うわーそんな蛍ちゃんなら見てみたかったなぁ俺」
「待っ」
「俺もだ。今なら煉獄さんの気持ちもわかる気がする」
「わかったごめん認めるから! だからそんな眩しい顔で話に花咲かせないで…!」
和気あいあいと会話を弾ませる三人は、生半可な突っ込みでは止まらない。
三人が朗らかに話せば話す程こみ上げる羞恥心に、とうとう蛍は敗北を認めた。
確かに列車初体験にてはしゃいでしまったが、あの時も保護者のように見守る優しい杏寿郎の笑顔に一人羞恥したものだ。
その記憶が鮮明に蘇るようで余計に恥ずかしい。
「ははは! 蛍にとって初の列車だったからな。浮足立つのは当然のこと。俺も初めてこの乗り物に乗車した時は堪らず体が揺れていたものだ」
「師範が?」
「えっ煉獄さんが?」
「うわー…(想像できない)」
再び炭治郎と善逸が耳を疑う。
今度は予想外の炎柱の初々しい姿に。
最初こそ驚いたものの、蛍だけは一人内心納得していた。
(想像は、できるかも)
顔を輝かせて、声も上げずにそわそわと少年のような顔で体を揺らしていたのかもしれない。
初めて膝枕を貸した時のように。
隊士としての杏寿郎だけではない、沢山の彼の顔を知ることができたからこそ弾むその心も蛍には手に取るように感じられた。