第33章 うつつ夢列車
「なん…ッてっきり柱と継子の関係かと思ってたら! なんッなん…っじゃそりゃあ!」
「ぜ、善逸?」
「なんだその音! どう聴いても師弟関係の心音じゃないだろ! いくら蛍ちゃんが可愛いからってなぁ…! 柱の肩書き利用して何してくれてんだ!!」
「ふむ、心音か! 君は宇髄のように聴覚が優れているのだな。感心感し」
「じゃねーよ何近場に手を出してんだって言ってんだ!」
「お、落ちつけ善逸。煉獄さんに凄い口の利き方してるぞ…っ」
「ハァ? かこつけて継子に手を出す男なんざ柱の風上にも置けるか!!」
「善逸、善逸。別に杏じゅ…師範は肩書きを利用して近場の私に手を出したりなんか」
「そうだな。だが俺から想いを告げたのは事実だ。黄色い少年は耳だけでなく察しもいい!」
「はい証言取りました有罪!!」
「む!?」
「師範はこれ以上口を挟まないで下さいっややこしくなるから…!」
杏寿郎の言っていることは正しい。
ただ今は憤怒状態にある善逸には火に油でしかない。
慌てて席を立つと、蛍は背後でめらめらと炎を燃やす善逸に駆け寄った。
「みっともないところを見せてごめんっ。今は任務中なのに、姿勢が甘かったのは私だから」
「何言ってんの蛍ちゃんは何も悪くないでしょそこの狼柱が悪いだけでしょ」
「むぅ…(狼柱とは)」
「で、でも善逸がそこまで怒…吃驚してくれるなんて。私も驚いちゃった。善逸はほら、禰豆子を大切にしてくれていたから」
何を言っても起爆剤になり兼ねない。
苦く笑うしかなく、気持ちの矛先を変えようと蛍は禰豆子の入った木箱を目線で示した。
「そりゃあ禰豆子ちゃんも大事だよ。でも蛍ちゃんだって…」
「…?」
言い淀むように口を閉じると、善逸の視線が列車の床を彷徨う。
「…蛍ちゃんだって、禰豆子ちゃんと同じに"鬼"を背負わされてしまった娘(こ)だから。だからこそ、難しいかもしれないけど…ちゃんと幸せになって欲しいって、思うんだよ」
唇を尖らせ、拗ねたように告げる。
善逸のその思いに、今度は蛍が口を噤む番だった。