第33章 うつつ夢列車
「…あの…」
「ん?」
「私が可愛いって言ったのは禰豆子であって…」
「うむ。だが俺にはどこからどう見ても四角い木箱しか見えないな」
「…触れてもいいかって訊いてきた」
「無論、蛍に触れたかったから訊いた」
「でも愛いって…」
「木箱を愛でる君の喜ぶ様が、とても愛らしくてな」
何をどう言っても返されるものはすれ違いばかり。
だというのに聞けば聞く程、顔の熱は増えていく。
何をどう問いかけても恥ずかしいことには変わりない。
杏寿郎の真っ直ぐな愛情表現には慣れたものだと思っていたが、だからと言って飽きる訳ではないのだ。
触れる度に胸は早鐘となり、更には周りにいる炭治郎達の存在が蛍に拍車をかけた。
「…十分ワカリマシタ」
「それはよかった!」
ぷすり。と湯気を一つ上げて再び俯く。そんな蛍とは対照的に爽やかに笑う杏寿郎の手が、くしゃりと愛おしく頭を掻き撫でる。
(そうか。煉獄さんのこの匂いは──)
何故自分の顔も熱くなってしまったのか。くんと鼻を鳴らして、いつかに嗅いだ二人の名残りを思い炭治郎は頷いた。
熱くもなるはずだ。
二人の間に築き上げられた想いの結晶に触れたのだから。
「なんだありゃ…」
そんな二人の様子に、沈黙を貫いていた伊之助は一人頸を傾げていた。
何故かはわからないが二人の姿を見ていると空気がほわほわするのだ。
肌がくすぐったいような、目を逸らしたくなるような、でも見ていたくなるような。
よくわからない感情に、更に伊之助の頸は曲がるばかり。
「……は?」
恥ずかしくも見守る炭治郎と、ほわほわと空気を和ませ黙り込む伊之助。
その中で黙っていられないのがこの少年、我妻善逸だった。
「はぁあああ!?」
ぽかんと二人の様子を見守っていたかと思えば、ぶちぶちと顔に血管を浮かばせて寄声を上げる。
その豹変ぶりには隣に座っていた伊之助の体をもビクつかせた。