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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 杏寿郎との出会いは短いが、鬼である禰豆子を斬首一択という姿勢から改めた者だ。
 何より鬼である蛍の全てを受け入れ、人生を懸けて人として向き合っている。
 そんな杏寿郎のことを炭治郎は純粋に尊敬していたし、憧れてもいた。

 だからこそ身内を愛でられるのはなんだかこそばゆい。


「俺も触れてみてもいいだろうか?」

「師範も禰豆子に興味持ちました? どうぞどうぞ。木箱の上からなら起こさないだろうし、いいよね炭治郎」

「えっあっうん」


 腕組みを解いた杏寿郎がにっこりと笑う。
 思いがけないところで歩み寄られるとは、と自分のことでもないのに炭治郎の顔に熱が生まれる。


(なんだろう。煉獄さん、凄く優しい匂いがする)


 人はそれぞれに纏う匂いが違う。
 杏寿郎からは、その容姿や柱の肩書きに沿ったような熱さと、そして正義感の強い匂いを感じていた。

 なのに今感じるのは、とても優しい匂いだ。
 それだけではなく、言いようのないあたたかみが染み込むような匂いも感じる。
 嗅いでいるだけで顔が熱くなるような。


「では、」


 身を乗り出した杏寿郎の手が、蛍を真似るように優しくそこに触れる。
 ひと撫で、ふた撫でと、撫で下ろして。


「ふむ。俺にはないきめ細やかな髪だ。手触りがとても滑らかで心地良い」

「…杏寿郎…?」


 さらりさらりと撫でていくのは、硬い木箱の表面ではない。
 その木箱を愛でていた蛍の頭だった。

 思わず継子の姿勢が抜けて、ぽかんと素で呼ぶ蛍に対し、杏寿郎の笑みはより深くなる。


「ずっと触りたくなるような髪だ」


 以前にも同じようなことを聞いた。
 なのにかっと蛍の顔に熱が灯ったのは、周りに知り合いである炭治郎達少年の姿があったからか。


「…っ」


 じわじわと熱くなる顔を無言で俯かせる蛍に、杏寿郎は納得するように頷く。


「成程、確かに。愛いものだ」

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