第8章 むすんで ひらいて✔
「ハァ…っハ…」
「呼吸が浅い! もっと深く! 息継ぎは静かに! 一度で肺に溜め込め!」
「ッ…押忍っ」
彩千代も人からすれば十分に"体力お化け"だ。
それでも最近は煉獄の厳しさに辛うじてしがみ付いているように見える。
鬼であれば体力は無尽蔵。
いくら煉獄が鍛え抜かれた柱とは言え、稽古事で置き去りにはされないはずだ。
特に彩千代のように、煉獄だけでなく宇髄や伊黒達からも稽古を付けられている鬼ならば。
『キャー!! 蛍ちゃんッ!? しっかりしてぇえ!』
『…ァあ? なんだこいつぶっ倒れやがって』
『不死川さんの頭突きで倒れちゃったのよぉおお!!』
しかし数日前。
幾度目かの風柱邸への訪問で、彩千代が不死川の重い頭突きを受けた際に意識を飛ばした。
ぷつりと糸の切れた人形のように動かなくなった彩千代を見て、甘露寺は盛大に顔を青くしていた。
俺も一瞬、肝が冷えた。
まさか頭突きで死ぬとは思わないが、何かあったのかと。
結局数刻経たずに彩千代は意識を取り戻したが、鬼にしては異例の出来事だった。
あの不死川さえも、それ以上手を出すのを躊躇した程だ。
柱達の稽古で呼吸法も身に付け、本来ならば強くなるはずの体。
なのに鬼である彩千代は、まるで真逆に弱体化しているように見えた。
近くで常に監視していたからわかる。
彩千代の体は、鬼殺隊へ連れてきたばかりの頃より弱くなっている。
その典型的なものが再生能力の低下だ。
強い鬼であればある程、再生の速度は増していく。
当初の彩千代は、人並みの鬼の再生能力を持っていた。
しかし徐々にそれも低下している。
理由は目星がついている。
宇髄との実践稽古で体を爆破したり、胡蝶の度重なる身体調査を受けたり、最近は立て続けに休む暇もなく行っている数々の稽古。
人であればとっくに倒れている。
それを可能にしているのは彩千代が人ではないからだ。
いつかは、と僅かに嫌な予感がしていたが、それが現実味を帯びつつある。
いつか、彩千代の体から再生能力が失われる日がくるかもしれない。
…それが果たして彩千代にとって良いことなのか。
未だ計り兼ねている。