第33章 うつつ夢列車
「その型を今度、師範に見てもらうのはどうですか」
「えっ煉獄さんに?」
「俺がその型を目にしたところで、ヒノカミというものも火を纏うような型も、炎の呼吸以外では見当もつかないが」
「でも何かのきっかけになるかもしれないし。炭治郎にとっても、師範にとっても」
「ふむ…蛍がそこまで言うのなら」
「本当ですかっ?」
「ああ。今度時間を作ろう。ただ過度な期待はしてくれるな、少年」
「いえっ見てもらえるだけで十分です! ありがとうございます…!」
答えは見えずとも、手探りにでも何かを掴めるのなら。
ぱっと顔を輝かせると、炭治郎は深々と頭を下げた。
「蛍もありがとうっ」
「私は何もしてないよ。師範は面倒見の良い人だから」
「はははっ蛍に褒められると照れ臭いところがあるな!」
「そうですか?」
腕組みをして笑う杏寿郎は常備運転。
笑い方も話し方も特に変わったところはない。
(…ん?)
しかしそこに目を止める少年が一人。
誰よりも詳細な音を拾える耳を持つ善逸は、なんとなしに引っ掛かりを覚えて目を止めた。
あんなにも炭治郎の話を所々でしか聞かない杏寿郎が、蛍の言葉には耳を貸す。
師弟関係だからこその特例だと思っていたが、違和感を覚えたのは善逸のその性格故だった。
異性関係とあらば勿論のこと、"そちら方面"となれば更に目敏くなる。
カリカリ…
「あ。禰豆子起きたのかな?」
「禰豆子ちゃんっ?」
更にその耳が拾ったのは、木箱の中から届く小さな引っ掻き音。
木箱の隣に座っていた蛍の耳が拾ったものを、同じにはっきりと善逸の耳は拾い上げていた。
というよりも禰豆子が関係している事柄ならなんだって一つ残らず聞き逃さないでいたい。
ガタリと席を立つ善逸の頭からは、既に先程の疑問は飛んでいた。
今は禰豆子のことでいっぱいだ。