第33章 うつつ夢列車
派生呼吸となると色と直結しないこともある為、水の呼吸を扱う炭治郎の刀が黒であることも決して事例のない訳ではなかった。
だからこそ「きつい」のだ。
黒刀を所持した剣士は誰もが、あまり大きな成果は出せずに飛躍的な成長も見られなかった為である。
言葉は率直だが、杏寿郎の笑い声に嫌味はない。
「俺の所で鍛えてあげよう! もう安心だ!」
炭治郎の言葉にもあまり耳を貸していないように思えるが、全面的に責任を負う姿勢は柱足るもの。
不安げな表情を残しながらも、炭治郎は眉尻を下げて苦くも笑った。
変わってはいるが、面倒見の良い人だと。
「炭治郎。炭治郎」
「え?」
その目がようやく隣に座る杏寿郎へと向いた時、不意に手招くように呼ばれた。
見れば、蛍が興味を抱いた顔で口元に手を添えて呼びかけている。
「その炭治郎のお父さんが舞っていたヒノカミ神楽って、どんなものなの?」
「あ…うん。一年に一度、年の始めに代々我が家で行っていた神楽なんだ。日没から夜明けまで、十二ある舞い型を延々と繰り返す行事で」
「へぇ。なんだか神社なんかで催されてそうな行事だね。無病息災を願うような」
「俺も起源はよくわからないんだけど…続けていくことが大事なんだって父さんは言ってた」
「続ける…」
「型を何百、何千と一晩で繰り返す演舞だから。その続けるなのか、父さんがそのまた父さんから繋いできたことの続けるなのか、俺にもよくわからなかったんだけど」
「その型を使って下弦の鬼を倒すことができたんだよね?」
「うん」
「じゃあ炭治郎の家系も、師範のように鬼殺隊と何か関りがあったんじゃ…」
「それはない。俺の家は代々炭焼き家として働いていたし、俺自身鬼のことも鬼殺隊のことも何も知らなかった。父さんがどうだったかわからないけど、父さん自身も病弱で刀を握ったことなんて一度もなかったよ」
「ふぅん…成程」
ふむふむと相槌を打ちながら、蛍も考え込むように自身の口元に手をかけた。