第33章 うつつ夢列車
杏寿郎が完食した山のように積み上げられた弁当箱を、ぐらぐらと揺らしながら給仕の女性駅員達が持ち去る。
綺麗に整頓された座席に再度座り直し、杏寿郎はざっと三人の若い剣士達を見渡した。
「君がお館様の時の少年だとは知っている。そこの二人も、蛍から話を聞いたことがある。黄色い少年と猪頭少年だな」
「我妻善逸くんと、嘴平伊之助くんです。師範」
「うむ!」
(あ。これは憶える気ないな)
表情と返事はいいものの、果たしてそれが記憶に直結しているかは不確かだ。
頭の回転が速く物覚えもいいはずの杏寿郎は、何故かいつも初対面の人の名を間違える。
頭の切り替えが早いのは、言い換えればせっかちということでもある。
非公認組織であっても鬼殺隊は大きな組織。剣士も隠も多く、鎹鴉にでさえも名はある。
個の名より先に隊士達の特徴を名にするのが、杏寿郎なりの記憶方法なのかもしれない。
「そしてその箱に入っているのが猫」
「禰豆子です師範」
前にも聞いた猫子少女などとは言わせない。つい先程までその名を出して伊之助と会話していたというのに。
という思いで蛍は皆まで言わせず訂正させた。
「うむ! ではその少女は蛍に預けて、俺に話とやらを聞かせてくれるか。溝口し」
「竈門です師範。竈門少年」
「うむ。竈門少年! 此処に座るといい」
「は、はいっ」
名前への突っ込みは蛍に任せて、促されるまま炭治郎は杏寿郎の隣に腰を下ろした。
背凭れがある為に邪魔になってしまう木箱は、向かいの座席に座る蛍へと預ける。
「ごめん、蛍」
「いいよ。善逸と伊之助は」
「ああうん、俺らは煉獄さんに話がある訳じゃないから。こっちで聞いてるよ。伊之助」
「うぉッすげぇ!」
「割れるだろガラスッ少しは落ち着けよッ」
座席は基本一つに二人まで。
蛍に気にしないでと笑顔で手を振ると、通路を挟んだ反対側の座席に善逸と伊之助は腰を下ろした。
伊之助の目は凄い速さで流れていく窓の外の景色に釘付けになっており、既に興味は炎柱から移り変わっている。
バンバンとガラスを叩く様は、野生児というより幼子のようだ。