第33章 うつつ夢列車
ほわりと、伊之助の肌をあたたかい何かが舞う。
「三人もきっと任務で此処へ来たんでしょ? ぜひ力になってくれたら嬉しいなぁ」
「…任務? 任務! やはりここには主がいたな! オレ様が来たからにはズッパリガッツリ倒してやるッ!」
「任務? え任務!? 任務って何!? 俺聞いてないんだけど!? 指令まだきてないって言わなかったか炭治郎!?」
「おお…思わぬところで起爆した」
ようやく伊之助を宥められたかと思えば、過剰反応を示したのは善逸だった。
極端に憶病な一面を見せる善逸は、鬼退治にも後ろ向きなところがある。
それ故の起爆だったが、蛍は鬼殺隊本部以外での善逸を知らない。
まじまじと目を丸くすれば、呼ばれた炭治郎が一歩進み出た。
「指令はまだきてなかったけど、煉獄さんに会うといいってしのぶさんから教えてもらったんだ。さっき言おうとしたら善逸が聞かなくて」
「それはお前が指令もないのに俺らを蝶屋敷から連れ出したからだろォー! ホラ見ろホラ見ろ! やっぱり柱の所に行けば強制同行任務になるじゃんか!」
「え…善逸達、無限列車の任務で此処に来たんじゃなかったの…?」
「ふむ。どうやらそうらしいな。そもそも今回の列車任務は俺の知るところでも、柱の俺とその継子である蛍しか任命されていないはずだ」
「えっそうなんですか?」
炭治郎の羽織を握りおいおいと涙を流す善逸は、全力で拒否反応を示している。
任務となれば命の危険も伴う。
覚悟も無しに急に告げられれば、尻込みしてしまうのも頷ける。
善逸のそれが剣士にしては過剰なところは、その性格にあるのだ。
炭治郎達の都合をすぐに悟った杏寿郎が告げれば、今度こそ蛍は驚きを隠せなかった。
「俺は煉獄さんに会う任をしのぶさんから託けられて…」
「じゃあもう会えただろ! いいだろ! 帰ろう!!」
「ま、待て善逸。会うだけじゃ駄目だ、話を聞かないと!」
ゆさゆさと善逸の剣幕により体を揺さぶられる。
両手を上げてどうにか主張する炭治郎に、助け舟を出したのは杏寿郎だった。
「成程。そういうことなら話を聞こう!」