第8章 むすんで ひらいて✔
❉
「体中の血を沸き立たせろ! 鬼であるならば血管が破裂しても死にはしない! 遠慮などするな! さあ!!」
「ッ…」
「集中力が途切れているぞ!!」
炎柱邸の道場に密度の高い呼吸が二つ。
一つは洗練された揺るぎ無く強い炎の呼吸。
もう一つは半端な息継ぎを続ける弱々しい呼吸。
指導する煉獄と、その稽古を受けている彩千代蛍だ。
全身から汗を噴き出しながらそれでも尚煉獄の稽古に喰ってかかる彩千代は、何か生き急いでいるように見えた。
元を辿れば数ヶ月前。
お館様と初めての対面を果たした後から彩千代は変化を見せた。
今までは来るもの拒まずだった姿勢が、自ら踏み込んで俺達と関わるようになった。
甘露寺はそんな彩千代を、嬉しがっていたようだが。
「今日も張り切ってるわね、蛍ちゃん。頑張ってる姿がきゅんとしちゃうっ♡」
「フン。まだまだ鍛え方が未熟だ。煉獄の動きについていけていない」
「で、でも伊黒さん。蛍ちゃんはもう一刻も休まず稽古してるから…」
「煉獄はまだピンピンしてるぞ」
「煉獄さんは体力お化けだものっ」
…それは甘露寺も似たようなものだと思う。
今日は非番の身。
付き添いついでに道場の隅で彩千代の監視を続けていたら、途中で顔を出した甘露寺と伊黒も何故か俺の隣に居座った。
煉獄が茶を出してくれたので、何故かそのまま其処で三人で茶を飲む羽目になっている。
それから二刻半。
生き急ぐように稽古に励む彩千代に、師としての火が付いたんだろう。
より一層厳しく熱く指導する煉獄に、止める者がいなければ稽古は延々と続く。
甘露寺が差し入れにと持って来た桜餅は既に大半、茶菓子となって消えた。
…俺は一口も食べていないが。