第33章 うつつ夢列車
「あれ? そういやその煉獄さんって確か、継子に…」
「ああ。蛍がいるはずだ」
「蛍ちゃんっ!? うっそォ蛍ちゃんに会えんの!? それを早く言えよ炭治郎!」
「(言わなくてもわかってると思ってたんだけど…)久しぶりだもんなぁ。蛍と最後に話した時は、まだ機能回復訓練中だったし」
「んふふふ♪ 蛍ちゃんかぁ。あれから大分経つし、変わったりしてるのかなぁ。髪の毛とか伸びてたらどうしよう!」
「? 蛍の髪の毛が伸びてたらどうなるんだ?」
「あぁ!? 蛍ってアイツか! オレはアイツを大親分なんて認めてねぇからな!!」
「誰もお前の親分子分事情なんて気にしてねぇよ」
「ァアン!?」
「まぁまぁ二人共。蛍の見た目の変化も親分子分の件も、会ってから話せばいいだろう?」
先程まで常識を兼ね備えていた善逸も、女性のこととなるとがらりと性格を変える。
それは鬼である蛍相手でも変わらない。
一発触発な二人を宥めながら、炭治郎は苦笑混じりに目の前の車両扉に手をかけた。
「蛍の匂いもわかるから、近付けばすぐに──」
「うまいッ!!!!」
車両扉をほんの少し開けただけだった。
そこから突風のように響き渡る声量に、びりびりと窓ガラスが震える。
あんぐりと口を開けて固まる炭治郎の後ろで、掴み合っていた善逸と伊之助も声無き驚きを見せていた。
「うまい! うまい!! うまい!!!」
声は目の前の扉の先から響いていた。
恐る恐る、前方へと進む炭治郎一行。
一歩進む度に「うまい」の称賛は上がり、その度にびりりと窓ガラスが揺れる。
他の乗客達も唖然と見守る中、その人物は車両の中心座席に座っていた。
手には上等の牛鍋弁当。
箸で一口運ぶ度に「うまい」と告げるは、善逸とはまた違う輝く金色(こんじき)と鮮やかな朱色の髪を持つ男。
「うまい!!」
「…あの人が炎柱?」
「うまい!!」
「うん…」
「うまい!!」
「ただの食いしん坊じゃなくて?」
「うまい!!」
「ぅ、うん…」
派手な容姿もそうだが、同じ隊服に身を包んでいるのだ。
面識のない善逸でも、それとなくその男が目的の人物であることは理解できた。